biko先生のマネー奮闘記 -3ページ目

北極30えもん19

「第ニ話 秘密のプレー」その8
「ちょっとあなた何考えてるの?ねえ、雛子と途中までやったんでしょ?」
「ペッティングのサービスまではさせて頂きました」
「んっまー!!もう!!あんた私専用なんでしょ!!」
「しかし色々な趣味の客様がいらっしゃるものですから、お友達にお貸しして自慢なされる方も」
「私はそういう変態じゃないわ!」
「こういう時の為にパスワードを設定することが出来ます」
「パスワード?」
「パスワードを言わないとプレイ機能が起動しません」
「ほほーそれは便利。盗まれても大丈夫ね。どんなパスワードにしようかなー」
「憶えやすいものがよろしいかと」
「そうね。それじゃ生年月日にしようかしら」
「承りました」
今日は大変な日になってしまった。明日から毎日北極30えもんを帯同しようと思ってたのに、いろいろ問題がありそうだ。。
社長は多分、ノープロブレム。北極30えもんのことをサポートのスタッフとして雇いたいと話せばNOとは言うまい。どうせ当社はペイ・フォー・パフォーマンス、簡単に言えば出来高制。或る意味、スタッフの雇用はそのグループの責任者、つまり倫子の判断なのだ。
それより問題は女どもだ。北極30えもんを虎視眈々(こしたんたん)と狙っているに違いない。特に雛子は危険だ。
雛子のグループの責任者、ヒンマゲール・モゲルに相談してみようか。でもなんて相談すればいい?人のバイブに手を出さないように言って下さい、とか?そんなこと言ったら自由主義をこよなく愛するヒンゲマールは
「No!倫子さーん。Sex=FreeMarketでなければなりません。あなたと雛子、どっちがMrノースポール・サーティーe-monにふさわしいか、自由に競争すべきでーす」
とか訳の分からんことを言い出すに違いない。
「でも北極30えもんは私の持ち物なのよ」
と主張すれば
「Oh!No!倫子。あなたは間違ってます。物件の所有権は移動するのでーす。売買や譲渡によって。それは敵対的買収も含まれるのでーす」
話すのも嫌になるほどの馬鹿だ。
尚且つ彼の場合、表向きそう言いながら
「まだ闇市の利権は渡さなくていいよー。3社で談合して決めればOKさ」
とか彼の本国、旧・共産圏に住まう家族とこっそり話してる。つまり信用ならぬ奴だ。下手すれば北極30えもんを売り飛ばす危険すらある。
「はあ、いろいろ考えてたら頭痛くなっちゃった」
考えてみれば一目散で六本木ピラーズからアパートに逃げ帰ってきたのだ。
「ねえ、なんかぐったり」
と言って倫子は北極30えもんの膝の上に乗った。
「今日は如何様(いかよう)なモードでなさいますか?」
「うーーんん。あちょこをなめなめして、三十分くらい舐(な)めっ放しがいい」
「承りました」
ちゅっちゅっちゅっちゅっちゅっちゅっちゅ
ぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろ
ちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅーちゅー
ぺちゃぺちゃぺちゃぺちゃぺちゃぺちゃ
「ほちいよ」
ぬぬぬぬっぽしっ
「あああああっっ」
にゅっちゃにゅっちゃにゅっちゃにゅっちゃにゅっちゃにゅっちゃ
「ああ、もう!ぱんぱん!」
ぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱん
「あぎゃー!っ」
ふーっ
倫子は北極30えもんの腕の中で安らかに眠るのだった。
(つづく)

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北極30えもん18

「第ニ話 秘密のプレー」その7
鋼鉄製の思いドアを開くと、薄暗い非常階段があった。階段も鋼鉄製。その鋼鉄を踏む靴音が遥か下、地獄の底からで聞こえてくるように小さく
かんかん
と鳴り響いてきた。耳を澄ますと
かんかん
ではなく
かかんんかかんんかかんん
つまり、二人の靴音だ。二人は倫子から逃れ、どこへ逃避行しようというのだろう?
「ほっきょくーーー逃がさないわよー」
って北極30えもんが逃げようとしてる訳ではなく、雛子が攫(さら)ったのだった。思い直して
「ひーーーーなーーーーこーーーー」
と倫子は悪魔の叫びのような声を上げ、二段飛ばしで階段を駆け下りた。倫子の怒りは二段飛ばしを三段飛ばしにし、更には四段、五段とスピードを上げ、遂には斜面を全速力で駆け下りるかのような速さに達した。折り返しでは鋼鉄製の手すりに捕まり、遠心力を利用して更にスピードアップした。そして、遂にその視界に逃げ降りる二人の姿を捉(とら)えた。
「おーーーいーーーまてーーーーこらーーー」
と叫び、あともう少しというところで二人の姿が忽然(こつぜん)と消えた。
「あれ?」
急ブレーキを掛け、全速力で走ったため捲(ま)くれ上がったタイトスカートを降ろし、周囲を見渡した。こんな閉鎖された場所に隠れるところなどどこにも無い筈。倫子は今度はゆっくりと階段を降り始めた。すると、
かっっっっっったん
といって静かに閉まった扉があった。
「ここから中に入ったわねーーーーーーー」
倫子はその非常扉を開け、中に駆け込んだ。日曜日のオフィスはどこも閉まっていて、がらんとしていた。廊下の電灯も非常用しか点いておらず、夜間のように薄暗い。先ほどの非常階段の方がまだ明るかった位だ。おそるおそる廊下を進む。廊下の先がエレベーターホールになっており、ここから丸見えだが、そこに人影は見えない。
「おかしい?」
と倫子は思った。どこかに隠れたのかしら?しばらく歩いてみたが何も音がしない。人の気配など勿論無い。
先ほど非常扉が小さく閉まる音がしたので、ここの階へ二人が逃れたのだと勝手に解釈したが、たまたま扉がきちんと閉まっておらず、倫子が階段を駆け下りた衝撃で閉まっただけかもしれない。と、なると二人はこの階に居ない。思い直して倫子は非常階段の方へ戻ろうと向き直った。来た時の半分ほど戻りかけたところで、倫子は聞きなれない音を耳にした。
きーっきーっきーっ
それはとても小さな音で、よほど耳を凝(こ)らさなければ聞き取れないほどの小さな音だったが、都会の真中とは思えないほど静まり返ったこの場所で、神経が敏感になっている倫子には十分聞き取れた。
「何かしら?」
倫子には、その音がどこから聞こえてくるのか、その方向が分かっていた。それは給湯室の隣の女子トイレに違いない。
「蛇口がキチンとしまってないのかな?いいえそんなことないわ。ここの蛇口はみんなセンサー式だもの」
ではいったい何の音だろう?
女子トイレのドアを、なるべく音を立てないように開けた。誰も居る気配は無い。それでも中へ入ってみる。個室のドアはどれも開いたまま、と思ったら一番奥の一つが閉まっている。
ひいいいいっ
倫子はこのまま引き換えそうと思ったが、好奇心がそれに勝った。いや、それ以上にその
きーっきーっきーっ
という音が更に大きくなり、いや、きーっきーっでは無い。
いーっいーっいーっ
だ。それは悪霊の呻(うめ)き声のように、大きくなっては小さくなり、小さくなっては多きなりを繰り返していた。明らかにそれは意思を持ったものの吐息である。
よく見るとその閉まった個室のドアは鍵を掛け忘れているらしい。僅(わず)かに開いている。
「お願い、迷い込んだ猫とかでいて!」
倫子はそう願いながら、胸の前で十字を切りドアを開けた。
あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!
悪魔の叫びが鳴り響き、眩(まばゆ)い光線と風が吹き荒れたーーーーー、ということは無い。
「あれ?倫子様」
「あーーーーー!!何やってんの!?北極30えもーーーーーーん!」
「え?雛子様が倫子様から頼まれたと」
便器を跨(また)ぐようにして壁に手をついた雛子が
ぜーぜー
と肩で息をしていた。彼女のお尻にはなんと北極30えもんバイブが今まさに刺さらんとしている。いや、先っぽが少し入っている。
「ちょっとーーーー!!どういうこと」
「雛子様が『倫子さんから試してみてって言われたの』と言われましたもので」
「そんなこと言ってなーーーーい」
倫子は慌てて北極30えもんを雛子から離し、そそくさと彼のズボンを上げた。
「倫子さーんんん。お願いー。ちょこっとだけでいいから。もう駄目なの収まりがつかないの。このまま放置されたらどうにかなっちゃう」
「どうにかおなり!」
そう捨て台詞を吐いて倫子は北極30えもんの腕を牽(ひ)き、出口に向かった。
がちゃっ
と音がするので振るかえると
「絶対頂いてやるーーーんんん」
と雛子が泣き出しそうな声で呪いの言葉を呟(つぶや)いた。かつてのカーリーヘヤーと見紛(みまが)うほどウエイブの入った超ロングヘアーという変な髪形で、エロい気分が最高潮に達した気だるさと半べその表情も手伝って、雛子の様は魔女のように見えた。
「ちょおぉーこ・わ・ひ」
と倫子は思いながら、トイレを後にした。
(つづく)

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北極30えもん17

「第ニ話 秘密のプレー」その6
そんなこんなでセミナーがようやく終了した。
「ぷはーっ。やっと終わっだーー!!」
倫子が席から立ち上がり、両手を突き上げて背伸びしながらそう叫んだ。それは自由の叫びのようだったが、まだ講師の爺さんがいた。
「こっほん」
とまた咳払(せきばら)いされた。
やべ!
と思ったが後の祭り。爺さんは両手の平を天井に向け首を横に振っていた。まあいい。まあいいのだ。どうせ爺さんは客ではない。官僚の後輩が如何(いか)に気を使おうとも、下々の庶民相手の倫子の仕事にまで嫌がらせすることは出来なかろう。
そんなことより早く帰らなくては。ぐずぐずしているとハイエナの群れ、といっても一匹&二匹だが、彼女達に見つかってしまう。
「のーりこさん」
ハイエナ2号の声がした。なんと抜け目無い!もうここに来ている。
「あら、どうしたの満里奈さん?」
「そちらの方を紹介して頂こうと思いまして」
「え?だって彼、ただの派遣からきたアルバイターよ。紹介なんて、嫌だわーほほほほほほほほほほほほほほほほほ」
「わたし満里奈っていいまーす。よろぴくね!」
って勝手に自己紹介した。
「里香ちゃんでーす!今日これから忙しいんですかー?飲みに行きません?ね?いいでしょー。割り勘でいいですよ、割り勘で」
いきなり誘ってきたのだ。
「ちょっとちょっと皆さん。彼はこれから私とお仕事のお打ち合わせがあるんでございますの。ご宴会その他はまたの機会にお願いしますねー」
ほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほ
と倫子は笑いながら満里奈と里香を突き飛ばし、北極30えもんの腕を引っ張って会場の出口に向かった。一番危険な雛子に見つかる前にここを去らねば。横目で見るとのろまな雛子はまだ席から立ち上がっていない。
よしっ
と出口から出ようとしたところで
「倫子ちゃ~ん」
と声を掛けられた。社長だ。
「何か?」
と、迷惑そうに返事をしたが、
「えーとっ、えーとっ、」
とはっきりしない。この社長は大して用が無いくせに話し掛ける癖がある。へたをすれば長時間拘束(こうそく)されかねない。
「あの社長。私急いでおりますので」
「そんな冷たいこと言わないでよー倫子ちゃ~ん。安心して相談できるのは君だけなんだよー」
相変わらず気持ちの悪い野郎だ。しかし社長だから仕方が無い。
「何か、問題でも?」
「問題って訳じゃないんだけど、なんかー、今日のセミナーどうだったー?ハードジャンク・インベスターの野郎がさー、なんかいいように」
つまり愚痴か、と倫子は思った。愚痴であればキャバクラにでも行ってキャバ嬢に聞いてもらえばいい。
「あの社長。その件は明日、社長室へお伺(うかが)い致しますので」
「う~ん、でもー。駄目なんだよねー明日じゃーーーーー」
ああ、もうじれったい!と倫子は思った。早く北極30えもんをここから連れ出さなきゃいけないのに、と思ってふと気付くと北極30えもんがいない。腕を掴(つか)んでいた筈なのに、社長との話しに夢中になって離してしまったらしい。倫子は慌てて周りを見た。セミナーが終わり、会場からエレベーターホールに向かう人の波の、どこを見ても見当たらない。まさか!?雛子に誘拐?
倫子は落ち着こうと務めた。こういう時は落ち着いて犯人の身になって考えるのだ。おそらく予想の逆手を取るに違いない。と、いうことは、普通誰もがエレベータホールに向かうと考える、つまりその逆。倫子はエレベーターの方向とは逆方向を見た。そして
は!
と重大な事実に気付いた。その方向には滅多に使わないので気付かなかったが非常口、つまり階段があった。倫子は人波に揉まれながら非常口の方へ移動した。すると開いている筈の無いそこ非常口の開かずの扉が、今まさに閉じようとしていた。誰かがそこから階段へ向かったのだ。締まる直前に扉の隙間から僅(わず)かに青い色が垣間見えた気がした。たしか北極30えもんは青い服を着ていたのだ。
「ほっきょくーーー」
泣き出しそうになった倫子に
「だからさーー、それでさーー、なーーー、ねーーー、けーーー、こーーー、もーーーー」
と社長が話し掛けてきたので、仕方なく彼の鳩尾(みぞおち)へ肘撃ちを喰らわせた。
「アン!社長失礼!あんまり混んでてエルボーが入っちゃった」
社長は白目を剥(む)き人波の底へ沈んで行った。
「ほっきょくーーーーーーーー」
倫子は非常口へ向かって全力疾走を始めた。
(つづく)

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北極30えもん16

「第ニ話 秘密のプレー」その5
セミナー会場に戻った倫子は雛子対策を考えながら席に向かって歩いた。途中、満里奈と里香がいることにも気付いた。
『この連中も油断ならねー』
倫子は取り敢えず北極30えもんに注意を促さねばと考えた。
席に戻ると
「ねえ」
と小声で北極30えもんに話し掛ける。が、反応が返ってこない。小声過ぎて気付かないのか?そこでまた
「ねえ」
と言いながら、今度は脇腹を肘で突付いてみた。が、同じである。寝ている?目は開いている。仕方のないので少し揺すってみるが反応が無い。
「ちょっと北極30えもん!」
と耳元で声を掛ける。無反応。
「ちょっと北極30えもん!!」
ともう少し大きい声で言った。しかしまた無反応だ。まさか壊れた!?
「ちょっと北極!」
倫子は焦(あせ)って大声を出してしまい、周りに座る者達から注目されてしまった。また、講師の爺さんにまた
「こほん」
と咳払いをされてしまった。倫子は小声で
「済みません」
と呟(つぶや)いて小さくなった。それにしても北極30えもんはどうなっちゃったというのだろう?
声を掛けても突付いても押しても引いてもさっぱり反応が無い。壊れたか。倫子はがっくりとうな垂れた。そして思い出したようにバッグから北極30えもんの本体を取り出した。たしか北極30えもんはそれを右のポケットから取り出していた。そこで元の右ポケットに押し込んでやった。すると、
ちゅいーんんんん、ちゅいんちゅいいいいいーんんん、ちゅいんちゅいちゅいんちゅいーーーーーーん
という機械音がした。倫子は驚いて北極30えもんを見た。すると北極30えもんの目に細かい数字が流れるように表れては消えた。そして10秒くらい立って
「ああ倫子さん」
北極30えもんは目覚めた。
「良かったー」
と倫子は思わず大声を上げてしまい、再び周りの顰蹙(ひんしゅく)を浴びたが、そんなことはもうどうでも良かった。
「壊れたのかと思っちゃった」
と倫子が言うと
「十分以上本体を取り外していると、機能を停止するんです」
と、北極30えもんが言った。
「それなら最初から言ってくれれば」
「まさか倫子様がセミナー中にこれほど長時間楽しまれると思っていなかったのです」
まあ、と倫子は赤くなってしまった。たしかに、さきほど出て行ってから一時間近く経っている。雛子とのやり取りを差し引いてもゆうに30分はやってしまったのだ。倫子は少し反省した。
「あー、早く部屋に帰って北極30えもんとセックスしたいよー」
と倫子は心の中で叫んだ。
(つづく)
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北極30えもん15

「第ニ話 秘密のプレー」その4
雛子は何時からトイレにいたのだろう?だいたい、何をしにトイレに来たのだ?重要なセミナー中にトイレでオナニー、それもバイブを使ってしまった後ろめたさも手伝って、倫子の頭の中はぐるぐるとフル回転した。
もしや会場の後ろの席から、北極30えもんがズボンの中へ手を入れ
本体を外す
 ↓
倫子に渡す
 ↓
倫子がハンドバックにしまう
 ↓
倫子はそ知らぬ顔でトイレへ、
という一連の流れを覗いていたのだろうか?そうして最後の
 ↓
トイレでオナニー
、という決定的場面を覗き見していたのだろうか?いいや個室の形状からして上にでも登らない限り見えない。では?
聞き耳を立てていた!
バイブの齎(もたら)す快楽に陶酔し、思わず口唇から漏れ出た喘ぎ声に聞き耳を立てていたんじゃ!?
最悪。なんていやらしいの!
と倫子は思ったが、いやらしいのは倫子の喘ぎ声の方であり、想像しただけで恥ずかしくなった。
廊下を歩きながら気が重くなった。声を上げていたかどうかと言われれば、たかがオナニーであるし、誰もいないとはいえ公衆のトイレである。そんな大声を上げた訳は無いだろう。しかしいった瞬間は、いつものことだがそこだけ記憶が飛んでいる。以前、お付き合いしたA君から
「倫子さんって激しくって素敵」
と言われたので
「え?そんなに激しく動いてないと思うけど」
と返したら
「いく時凄いじゃないですか『あーああーーーーー!』って大声あげてターザンみたいでしたよ」
「ターザン!」
「ええ、野性的で素敵でした。僕も燃えちゃいましたよ」
「うう、」
ターザンのような声とはどんな声だったのだろう。以来いく時、自分がどのような声を上げるのだろう?と気にはしていたものの、いざその時になるとあまりの気持ち良さに我を忘れてしまう。
「う~ん。ま・さ・か」
倫子は頭を抱え廊下の窓から覗く都会の風景に見入った。夥しい数のビル群、まるで海だ。ビルの海、海の中にビルが林立していると言おうか、ビルの波に都市が覆われていると言おうか、いずれにせよこの中には途方も無い数の人間が棲息しているのだ。
「中にはオナニーの声を同僚に聞かれちゃった人だっている筈だわ」
と思うと気が楽になった。すると突然、
あああーーああああああーーーー
ターザンの声!振り向くと雛子!やはり雛子は自分のターザンのような声を聞いていたのか!?
「何!?何なの!?人を馬鹿にしてるの!?」
倫子が睨(にら)むと雛子は
「え?何怖い顔してるんですか?倫子さん」
「だってあなた今、私のターザンの声を」
「え?ターザン?」
「『あーああーー』って」
「ああ、あんまりお天気がいいから、つい大声出したくなっちゃって。セミナー退屈でしょ、だから。ごめんなさーい」
悪霊のように長い髪を腰まで垂らしてるくせして、話すとお軽い調子というのがなんともアンバランスな女だ。窓から差し込む陽光を眩(まぶ)しそうに見上げながら雛子は手で髪を梳(す)くった。ワカメのような髪の中から彼女の顔が現れる。それまでの暗い印象からは想像できないほど華やかで可愛らしい顔をしている。彼女に篭絡(ろうらく)されたと噂される男達が決まって
「雛子ちゃんって井川遥に似てるよね」
というのも納得できる。ボディも、腰まで掛かった髪に邪魔されてよく分からなかったが、なかなかのナイスバディ。
「倫子さんこそ何やってるんですか?早く戻らないと叱られますよ」
「え!ええ?そうね」
倫子はうろたえた。雛子は事実を知っててとぼけてるのだろうか?続け様に雛子は言った。
「ねえ、倫子さんの連れてきた男の人、バイトなんかじゃ無いでしょ」
そうして雛子はそのナイスボディで倫子を壁に押し付けた。倫子は雛子のボディと壁の間で身動き出来なくなってしまった。
「ちょっと!何するの?」
すると雛子は倫子の耳にべったりと唇を付け
「あの人は何か特別な人。それと不思議なんだけど倫子さんのそのバックから彼の匂いがするの。何故?」
鋭い!雛子は霊能力者だという噂を聞いたことがある。もしやその能力で北極30えもんの秘密をうすうす感づいているのだろうか?
「ねえ、一度お話させてくださいよー」
と雛子は倫子の顔を舐めるんじゃないかというほど顔を寄せて、そう囁いた。
「ね、倫子さんお願い。誰もいない廊下でこんな風にあんまり長く話してると私たちレズだと思われちゃいますよ」
たしかに、灰皿掃除のお爺さんが不自然なほどこちらを無視して黙々と吸殻をバケツに集めている。
「お願い。倫子さん。雛子、気になって眠れなくなっちゃうかも」
そう言って雛子は斜めに顔を寄せてくる。このままではディープキスまでされてしまいそうだ。
「こ・わ・ひ」
我知らず倫子は小刻みに頷(うなづ)いてしまった。
(つづく)

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北極30えもん14

「第ニ話 秘密のプレー」その3
にゅぷっ
ういいんういいんういいんういいん
あぷっ
ういいんういいんういいんういいんういいん
うっぷっ
ういいんういいんういいんういいんういいんういいん
おお!!
ういいんういいんういいんういいんういいんういいんういいん
うぎゅぎゅ!っんん
ふーーっすっきり
『北極30えもんの本体が取り外し式で良かったわー。はあ、すっきりしちゃった』
倫子はしばし便座に座り余韻を楽しむと、そそくさと北極30えもんの本体をハンドバッグに仕舞い込んだ。パンティとストッキングを上げ、スカートを降ろし、衣服を整える。タイトスートをたくし上げていたせいで、少し皺になってる。その皺がちょっと卑猥に見えて恥ずかしかったが仕方ない。倫子は、昨夜の食べ合わせが悪くお腹が絶不調で長時間便座に座り続けてしまった、と言い訳しようと思った。それにしてもオナニーじゃなくてうんちなのよと言い訳するというのも変な話だ。
取り敢えず衣服が整ったところで、個室から出て洗面台まで行き、鏡を見て顔を点検した。少し紅ら顔。というより上気している。そして目尻が下がって、口が半開き。額の髪の生え際にうっすらと汗までかいている。明らかにセックスをした後の顔だ。しかし
「あ!あの人セックスしてきたんだー!」
とか言われるならいいが
「あ?あの人セックスして・・・いえ、会議中だものそんな筈無いわ。たしかトイレへ行っただけ。じゃあ?ええ!?もしかしてオナニー!?いやだー恥ずかしい」
などと思われたら最悪だ。
深呼吸し、呼吸を整え、汗を拭(ぬぐ)い、ファンデーションと口紅を塗り直す。実はオナニーの時、唇を舐(な)める癖があるので口紅が全て無くなってしまっていた。
「いやーこりゃ生生しいわ」
一応、証拠隠滅は万全の状況になったところで、顔を上げ、もう一度お顔をチェック、しようと思ったら鏡に映った自分のすぐ背後にもう誰かが立っている。
『え?私独りの筈』
ぞおぉぉぉぉぉぉー。背筋が冷たくなるのを感じた。
『誰!?』
と叫んだ声は声にならなかった。
その背後の女は、海草のように長い髪は腰の辺りまで伸び、前に立つ倫子を覆い包むかのようだ。女の顔もその長い髪に隠されたまま。
そう言えば新人だった頃、聞かされた事がある。同僚の若い娘に男を三人連続寝取られ、このトイレで首を吊って死んだOLがいる、と。
間違い無くそのOLに違いない。重要なセミナー中にこともあろうかバイブを持ちこみ、たっぷり30分もオナニーをしていた倫子を見かね、化けて出て来たに違いない。
ひいいいいいいいいいい!!
「あーーーーーーあれ?雛子?」
内田雛子だった。
「何してんのよ!?こんなとこで。人のオナっじゃ無かった、ええーっと、御用足しを覗いてたんじゃないでしょうねー?」
「えええ?何言ってるんですか。たった今トイレに来ただけですよー。もう倫子さったら大袈裟なんだから」
「本当?」
怪しい。こいつは怪しい。だいたいそう言いながらも雛子の視線はハンドバッグを見ている、と倫子は思った。
『北極30えもんの秘密は決してあばけなくてよ!!』
(つづく)

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今日はおやすみ。

北極30えもんは今日はお休みです。

代わりに私の写真でご勘弁下さい(^_^;

 

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北極30えもん13

「第ニ話 秘密のプレー」その2
「ピーターが忠告してくれた訳です。『重要なのはマネジメントだ』とね。そこでズビグニューに電話しましてね、事なきを得た訳です・・・」
お年寄りと言うものは何故にこうも昔話が好きなのか?ピーター?WHO?ズビグヌー?呂律(ろれつ)が回らない。
「あああ、もう嫌やややや」
と倫子が北極30えもんの耳元で小声で言った。
「大変でございますね」
「あなた飽きない?」
「スリープモードに入っております」
「え!?寝てるの?」
「言わば半寝です。声を掛けらた瞬間に再起動します」
「羨(うらや)ましいなー。私もスリープモードに入りたいよ」
そう口にして顔を上げると講師の爺さんと目が合った。どうやら聞かれてたらしい。爺さんは
コホン
っと一つ咳(せき)をすると無視して話を進めた。たしか同じ六本木ピラーズに入居するリャーメンシスターズ投資顧問のお爺さん。昔は国の偉いお役人だったらしい。もう昔の栄光を振り回すような自慢話はやめてくれー、っと言いたいところだが、相変わらずこの人たちが日本の政治・経済・行政に対し強い発言力を持ってるのは間違い無い。下手にご機嫌を損ねるとどんなところから嫌がらせされるか分からない。こういう類の人たちは、自分の力でどれだけ法や道理を曲げられるかを誇示する、という非常に立ちの悪い性質をもっているのだ。
つまりこのセミナーも、本質的には彼の話の内容はどうでもいい話で、こういうつまらない老人なんだけど昔は偉かった人のくだらない話でも我慢して聞けるような忍耐力を鍛えましょう、というのが趣旨なのだ。
それにしても
「写経でもやった方がましだわ」
と倫子は思った。ふと、横を見ると北極30えもんから何やら小さな音がしている。
カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ
「ななな、何?壊れちゃったの?」
と言うと北極30えもんが
「いえ、倫子様がお疲れのようですので、わたしが全て記憶しておこうと思いまして」
「え!?そんなこと出来るの?」
「簡単でございます」
「えー、じゃ、お願いしちゃおうかな」
「承りました」
しかし、かと言って、ここから帰る訳にはいかない。会場後方の出入り口を見ると社長とハードジャンク・インベスターズの西尻社長が談笑している。どうせ良からぬ企(たくら)みの相談でもしてるに違いない。
「うーん」
帰る訳にもいかず、しかし北極30えもんが全て記憶してくれるので、特に聞く必用も無い。しかし、あと4時間ほどのこの退屈な時間をどう過ごせば良いのか?
「やっぱり写経の方がましだわ」
最前列にいるだけに寝る訳にもいかない。まして先ほど講師の爺さんから咳払(せきばら)いされたばかりだ。
「退屈なご様子ですね」
「死ぬわよ」
「では、お手を拝借(はいしゃく)」
「え?拍手でもするの?」
「いえ、お手のマッサージ機能がございます」
「へー。まあ暇だからお願いするか」
「承りました」
きゅっもみもみもみもみ
あれ?なんか気持ち良い
ゆびからませからませ
ああんんん、指を絡(から)ませられるとなんか感じてきちゃう
つぼを押します
ぐいっぐいっぐいっぐいっぐいっぐいっぐい
ああっあふんなにこれ、変な気持ちになってくる
手の上の方が頭のつぼで、下の方が足のつぼなんですよ、今は真中をおしてます
ってことはあそこのつぼを
そうです
あんあんあんあんあんあん声が出ちゃう
ガチャン!!
堪(こら)えが聞かなくなったところで、倫子は腰掛からひっくり返りそうになった。講師の爺さんは一瞬、言葉を止め倫子の方を見たが突然頬(ほほ)を赤らめると、再び一つ咳払(せきばら)いし、何事も無かったように話を再会した。
倫子は、まずい!、と思い身体を伏(ふ)せたまま会場を見回した。なにしろこんなお堅いセミナーの最前列で指を揉まれいってしまったものなどかつていないに違いない。しかし、おそるおそる振り向いて見たが既に誰も倫子を気にしている様子は無い。皆、他人のことにはさほど関心が無いということだろう。
「ねえ駄目。北極30えもん。もうもわんとなっちゃって。おさまり付かなくなっちゃったよ。なんとかして」
「そうですね。それでは取り外しましょうか?」
「取り外す?」
「ええ、本体は取り外し式になっております」
「本体とは?」
「これにございます」
そう言って北極30えもんが差し出したのは、男性のそれと同じ形をしたあれであった。
「ああ!!これはバイブ!!」
「はい、スイッチはですね。こことここです」
「Oh!Ye-----s」
そう小声で言うと倫子は北極30えもんの本体をバッグにしまい、トイレに行く振りをして席を立った。どうせ誰も関心など持つまい、ふふん、っと倫子が微笑んだ瞬間、鋭い眼光が目に入った。
「内田雛子!」
長い髪のあいだから恐ろしいほど強く輝く目が覗いていた。
「ひいいいいいいいいいいいいいいいいい」
(つづく)

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北極30えもん12

「第ニ話 秘密のプレー」その1
日曜日だというのに、六本木ピラーズのセミナー会場は人でごった返している。入居している企業の合同セミナーだからだ。
企画したのは同じく六本木ピラーズ入居組、総合インターネットサービス企業グループ株式会社家畜獣ヤプー、の親会社の関連会社ハードジャンク・インベスターズ。勝ち組みベンチャーばかりがお互い睨(にら)みを効かせ合いながら割拠(かっきょ)するこのピラーズで、同居各社に
「合同セミナー開きましょう。1社一千万の格安ですからピラーズ入居組にとっては昼飯代わりっすよ。仕切りは全部ウチでやっちゃいまーす」
と持ち掛けてくるとはいい度胸をしている。それに輪を掛けて断るのも癪(しゃく)になるような言い方が憎い。
エントランスはセミナー参加者でごった返していた。倫子が、人を掻き分けながらエレベーターの方に向かって歩いていくと、倫子の会社の社長とハードジャンク・インベスターズの社長がタバコを吸いながらこそこそ話していた。
「西尻ちゃんずるいよ。でもおれ、そういうの好き。また今度おれもずるいこと考えるから、その時はのってね」
と社長が西尻に言っているのが聞こえる。そこで、そちらの方向に顔を向けると
「あ!倫子ちゃん。ちょっと、こっちこっち」
と社長が呼ぶので、二人の方へ向かう。しかし!!そこで気が付いた。
「あ!」
「どうなさいまいた?」
「どうなさいましたって、あなたよ。まずいわ」
「まずいですか?」
「まずいわよ。『その男誰だ』って話になっちゃう。だから、ちょっとその辺で隠れてて」
そう言って沢山ある柱のうちの一本の影に北極30えもんを隠れさせた。
「やあやあやあやあやあ倫子ちゃん、おはよー。あ、この人知ってる?ハードジャンク・インベスターズのダースベイダー西尻ちゃん」
そう言われた西尻は
「ダースベイダーはひどいよ」
と軽くいなしながら倫子の方を振り向きヒューっと唇を小さく鳴らしながらウインクしてきた。倫子は内心『ゲゲッ』と思ったが、飲み込んだ。
「だってそうじゃない。正義の味方かと思ったら有り金全部持ってっちゃうんだから」
まだ社長は言ってる。余程、今日のセミナーをハードジャンク・インベスターズに仕切られたのが気に入らないらしい。仕方なく倫子は西尻に助け舟を出した。
「社長、ダースベイダーは本当に正義の人だったんですけど、色んなことで悩んで悪の道に落ちちゃったんですよ」
「ええ!?それほんと?倫子ちゃん。じゃ西尻ちゃんの方が悪者なんだ。悩んでないもん。ナチョラル・ボーン・キラーズ。ひひひ」
「おいおいそれは幾らなんでもひどいよ」
はははひひひふふふへへへほほほ
などとわざとらしい笑で話は一段落した。
「ところで西尻ちゃん。彼女、倫子ちゃん紹介します。当社のナンバーワンセクシー社員」
「イーーヤホホッーイェイ。最高に僕の好み!また会社に遊びに来てよ。33階!」
「西尻ちゃん、そのまま引き抜きは駄目だぜ」
「バレたか」
ひひひふふふへへへほほほははは
笑い方から推察するにこの二人は間違いなく仲が悪いに違いない、と倫子は思った。
「セミナーが始まってしまうので行きます。また後ほど。ほほほ」
と倫子は卒なく逃げた。
セミナー会場に付くとほぼ満員。前の方が幾つか開いているが北極30えもんと並んで座るとするなら一番前の列しかなさそうだ。
「仕方ない」
と倫子は北極30えもんを引き連れ、一番前まで歩き始めた。すると
「倫子さん!」
と通路の真中辺りで声を掛けられた。同僚の満里奈である。隣には里香もいた。二人は入社3年目でちょうど仕事にも会社にも人間関係に

も馴れ切ったところだ。まずいのに見つかった、と思ったが後の祭り。案の定
「ねえ、倫子さん一緒に連れてる人誰ですー?」
と訊いてきた。こういう場合を想定して言い訳を考えとくんだと思ったが今更仕方が無い、咄嗟(とっさ)に
「派遣の子よ。ヌットイレルから来てるの」
「ああ、44階のヌットイレル社から。へえ」
「そう」
「じゃ、倫子さんのいい人じゃないんですね」
「え!?何馬鹿なこと言ってんの?仕事よ仕事。仕事のお付き合い!」
「良かったー。私好みなんですこういう人。満里奈って言いまーす。よろしくね。うふ」
「えーえー。私も凄ーい好み。だってー福山雅治にクリソツじゃーん。わたし里香。あとで携帯のメルアド交換してもいいですかー?」
やはりこの馬鹿OLどもにあったらどう対処するか、事前に考えておくべきだった、と倫子は後悔したが取り敢えずこの場は勢いで乗り切

ることにした。
「もう始まるわよ!」
そう叱るように言い、北極30えもんの腕を引いて最前列まで歩き出した。と、その瞬間、
『誰かが見ている!?』
なにやら背筋が凍りつくような恐ろしい視線を感じた。視線の方に振り向くと彼女がいた。
「う、内田雛子!」
満里奈、里香と同期のくせに無口でとっつきにくい女。超長髪で顔にまで髪が掛かっており、その間から瞳だけが覗いている。女子社員の間では陰で「貞子」と呼ばれていた。
しかし、こういう女ほどこと男については侮(あなど)れない、と倫子は思っていた。どうやら満里奈、里香と同様、北極30えもんに興味をもったらしい。そういえば以前、彼女の携帯を覗いた時、福山雅治の写真を待受画面にしていた。
最前列ということは、今日一日、この女の視線を浴び続けなければならないのか?
『ひいいいいいいいいいいいいいいい』
倫子は恐怖におののいた。
(つづく)

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