北極30えもん17 | biko先生のマネー奮闘記

北極30えもん17

「第ニ話 秘密のプレー」その6
そんなこんなでセミナーがようやく終了した。
「ぷはーっ。やっと終わっだーー!!」
倫子が席から立ち上がり、両手を突き上げて背伸びしながらそう叫んだ。それは自由の叫びのようだったが、まだ講師の爺さんがいた。
「こっほん」
とまた咳払(せきばら)いされた。
やべ!
と思ったが後の祭り。爺さんは両手の平を天井に向け首を横に振っていた。まあいい。まあいいのだ。どうせ爺さんは客ではない。官僚の後輩が如何(いか)に気を使おうとも、下々の庶民相手の倫子の仕事にまで嫌がらせすることは出来なかろう。
そんなことより早く帰らなくては。ぐずぐずしているとハイエナの群れ、といっても一匹&二匹だが、彼女達に見つかってしまう。
「のーりこさん」
ハイエナ2号の声がした。なんと抜け目無い!もうここに来ている。
「あら、どうしたの満里奈さん?」
「そちらの方を紹介して頂こうと思いまして」
「え?だって彼、ただの派遣からきたアルバイターよ。紹介なんて、嫌だわーほほほほほほほほほほほほほほほほほ」
「わたし満里奈っていいまーす。よろぴくね!」
って勝手に自己紹介した。
「里香ちゃんでーす!今日これから忙しいんですかー?飲みに行きません?ね?いいでしょー。割り勘でいいですよ、割り勘で」
いきなり誘ってきたのだ。
「ちょっとちょっと皆さん。彼はこれから私とお仕事のお打ち合わせがあるんでございますの。ご宴会その他はまたの機会にお願いしますねー」
ほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほ
と倫子は笑いながら満里奈と里香を突き飛ばし、北極30えもんの腕を引っ張って会場の出口に向かった。一番危険な雛子に見つかる前にここを去らねば。横目で見るとのろまな雛子はまだ席から立ち上がっていない。
よしっ
と出口から出ようとしたところで
「倫子ちゃ~ん」
と声を掛けられた。社長だ。
「何か?」
と、迷惑そうに返事をしたが、
「えーとっ、えーとっ、」
とはっきりしない。この社長は大して用が無いくせに話し掛ける癖がある。へたをすれば長時間拘束(こうそく)されかねない。
「あの社長。私急いでおりますので」
「そんな冷たいこと言わないでよー倫子ちゃ~ん。安心して相談できるのは君だけなんだよー」
相変わらず気持ちの悪い野郎だ。しかし社長だから仕方が無い。
「何か、問題でも?」
「問題って訳じゃないんだけど、なんかー、今日のセミナーどうだったー?ハードジャンク・インベスターの野郎がさー、なんかいいように」
つまり愚痴か、と倫子は思った。愚痴であればキャバクラにでも行ってキャバ嬢に聞いてもらえばいい。
「あの社長。その件は明日、社長室へお伺(うかが)い致しますので」
「う~ん、でもー。駄目なんだよねー明日じゃーーーーー」
ああ、もうじれったい!と倫子は思った。早く北極30えもんをここから連れ出さなきゃいけないのに、と思ってふと気付くと北極30えもんがいない。腕を掴(つか)んでいた筈なのに、社長との話しに夢中になって離してしまったらしい。倫子は慌てて周りを見た。セミナーが終わり、会場からエレベーターホールに向かう人の波の、どこを見ても見当たらない。まさか!?雛子に誘拐?
倫子は落ち着こうと務めた。こういう時は落ち着いて犯人の身になって考えるのだ。おそらく予想の逆手を取るに違いない。と、いうことは、普通誰もがエレベータホールに向かうと考える、つまりその逆。倫子はエレベーターの方向とは逆方向を見た。そして
は!
と重大な事実に気付いた。その方向には滅多に使わないので気付かなかったが非常口、つまり階段があった。倫子は人波に揉まれながら非常口の方へ移動した。すると開いている筈の無いそこ非常口の開かずの扉が、今まさに閉じようとしていた。誰かがそこから階段へ向かったのだ。締まる直前に扉の隙間から僅(わず)かに青い色が垣間見えた気がした。たしか北極30えもんは青い服を着ていたのだ。
「ほっきょくーーー」
泣き出しそうになった倫子に
「だからさーー、それでさーー、なーーー、ねーーー、けーーー、こーーー、もーーーー」
と社長が話し掛けてきたので、仕方なく彼の鳩尾(みぞおち)へ肘撃ちを喰らわせた。
「アン!社長失礼!あんまり混んでてエルボーが入っちゃった」
社長は白目を剥(む)き人波の底へ沈んで行った。
「ほっきょくーーーーーーーー」
倫子は非常口へ向かって全力疾走を始めた。
(つづく)

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