北極30えもん13 | biko先生のマネー奮闘記

北極30えもん13

「第ニ話 秘密のプレー」その2
「ピーターが忠告してくれた訳です。『重要なのはマネジメントだ』とね。そこでズビグニューに電話しましてね、事なきを得た訳です・・・」
お年寄りと言うものは何故にこうも昔話が好きなのか?ピーター?WHO?ズビグヌー?呂律(ろれつ)が回らない。
「あああ、もう嫌やややや」
と倫子が北極30えもんの耳元で小声で言った。
「大変でございますね」
「あなた飽きない?」
「スリープモードに入っております」
「え!?寝てるの?」
「言わば半寝です。声を掛けらた瞬間に再起動します」
「羨(うらや)ましいなー。私もスリープモードに入りたいよ」
そう口にして顔を上げると講師の爺さんと目が合った。どうやら聞かれてたらしい。爺さんは
コホン
っと一つ咳(せき)をすると無視して話を進めた。たしか同じ六本木ピラーズに入居するリャーメンシスターズ投資顧問のお爺さん。昔は国の偉いお役人だったらしい。もう昔の栄光を振り回すような自慢話はやめてくれー、っと言いたいところだが、相変わらずこの人たちが日本の政治・経済・行政に対し強い発言力を持ってるのは間違い無い。下手にご機嫌を損ねるとどんなところから嫌がらせされるか分からない。こういう類の人たちは、自分の力でどれだけ法や道理を曲げられるかを誇示する、という非常に立ちの悪い性質をもっているのだ。
つまりこのセミナーも、本質的には彼の話の内容はどうでもいい話で、こういうつまらない老人なんだけど昔は偉かった人のくだらない話でも我慢して聞けるような忍耐力を鍛えましょう、というのが趣旨なのだ。
それにしても
「写経でもやった方がましだわ」
と倫子は思った。ふと、横を見ると北極30えもんから何やら小さな音がしている。
カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ
「ななな、何?壊れちゃったの?」
と言うと北極30えもんが
「いえ、倫子様がお疲れのようですので、わたしが全て記憶しておこうと思いまして」
「え!?そんなこと出来るの?」
「簡単でございます」
「えー、じゃ、お願いしちゃおうかな」
「承りました」
しかし、かと言って、ここから帰る訳にはいかない。会場後方の出入り口を見ると社長とハードジャンク・インベスターズの西尻社長が談笑している。どうせ良からぬ企(たくら)みの相談でもしてるに違いない。
「うーん」
帰る訳にもいかず、しかし北極30えもんが全て記憶してくれるので、特に聞く必用も無い。しかし、あと4時間ほどのこの退屈な時間をどう過ごせば良いのか?
「やっぱり写経の方がましだわ」
最前列にいるだけに寝る訳にもいかない。まして先ほど講師の爺さんから咳払(せきばら)いされたばかりだ。
「退屈なご様子ですね」
「死ぬわよ」
「では、お手を拝借(はいしゃく)」
「え?拍手でもするの?」
「いえ、お手のマッサージ機能がございます」
「へー。まあ暇だからお願いするか」
「承りました」
きゅっもみもみもみもみ
あれ?なんか気持ち良い
ゆびからませからませ
ああんんん、指を絡(から)ませられるとなんか感じてきちゃう
つぼを押します
ぐいっぐいっぐいっぐいっぐいっぐいっぐい
ああっあふんなにこれ、変な気持ちになってくる
手の上の方が頭のつぼで、下の方が足のつぼなんですよ、今は真中をおしてます
ってことはあそこのつぼを
そうです
あんあんあんあんあんあん声が出ちゃう
ガチャン!!
堪(こら)えが聞かなくなったところで、倫子は腰掛からひっくり返りそうになった。講師の爺さんは一瞬、言葉を止め倫子の方を見たが突然頬(ほほ)を赤らめると、再び一つ咳払(せきばら)いし、何事も無かったように話を再会した。
倫子は、まずい!、と思い身体を伏(ふ)せたまま会場を見回した。なにしろこんなお堅いセミナーの最前列で指を揉まれいってしまったものなどかつていないに違いない。しかし、おそるおそる振り向いて見たが既に誰も倫子を気にしている様子は無い。皆、他人のことにはさほど関心が無いということだろう。
「ねえ駄目。北極30えもん。もうもわんとなっちゃって。おさまり付かなくなっちゃったよ。なんとかして」
「そうですね。それでは取り外しましょうか?」
「取り外す?」
「ええ、本体は取り外し式になっております」
「本体とは?」
「これにございます」
そう言って北極30えもんが差し出したのは、男性のそれと同じ形をしたあれであった。
「ああ!!これはバイブ!!」
「はい、スイッチはですね。こことここです」
「Oh!Ye-----s」
そう小声で言うと倫子は北極30えもんの本体をバッグにしまい、トイレに行く振りをして席を立った。どうせ誰も関心など持つまい、ふふん、っと倫子が微笑んだ瞬間、鋭い眼光が目に入った。
「内田雛子!」
長い髪のあいだから恐ろしいほど強く輝く目が覗いていた。
「ひいいいいいいいいいいいいいいいいい」
(つづく)

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