北極30えもん18 | biko先生のマネー奮闘記

北極30えもん18

「第ニ話 秘密のプレー」その7
鋼鉄製の思いドアを開くと、薄暗い非常階段があった。階段も鋼鉄製。その鋼鉄を踏む靴音が遥か下、地獄の底からで聞こえてくるように小さく
かんかん
と鳴り響いてきた。耳を澄ますと
かんかん
ではなく
かかんんかかんんかかんん
つまり、二人の靴音だ。二人は倫子から逃れ、どこへ逃避行しようというのだろう?
「ほっきょくーーー逃がさないわよー」
って北極30えもんが逃げようとしてる訳ではなく、雛子が攫(さら)ったのだった。思い直して
「ひーーーーなーーーーこーーーー」
と倫子は悪魔の叫びのような声を上げ、二段飛ばしで階段を駆け下りた。倫子の怒りは二段飛ばしを三段飛ばしにし、更には四段、五段とスピードを上げ、遂には斜面を全速力で駆け下りるかのような速さに達した。折り返しでは鋼鉄製の手すりに捕まり、遠心力を利用して更にスピードアップした。そして、遂にその視界に逃げ降りる二人の姿を捉(とら)えた。
「おーーーいーーーまてーーーーこらーーー」
と叫び、あともう少しというところで二人の姿が忽然(こつぜん)と消えた。
「あれ?」
急ブレーキを掛け、全速力で走ったため捲(ま)くれ上がったタイトスカートを降ろし、周囲を見渡した。こんな閉鎖された場所に隠れるところなどどこにも無い筈。倫子は今度はゆっくりと階段を降り始めた。すると、
かっっっっっったん
といって静かに閉まった扉があった。
「ここから中に入ったわねーーーーーーー」
倫子はその非常扉を開け、中に駆け込んだ。日曜日のオフィスはどこも閉まっていて、がらんとしていた。廊下の電灯も非常用しか点いておらず、夜間のように薄暗い。先ほどの非常階段の方がまだ明るかった位だ。おそるおそる廊下を進む。廊下の先がエレベーターホールになっており、ここから丸見えだが、そこに人影は見えない。
「おかしい?」
と倫子は思った。どこかに隠れたのかしら?しばらく歩いてみたが何も音がしない。人の気配など勿論無い。
先ほど非常扉が小さく閉まる音がしたので、ここの階へ二人が逃れたのだと勝手に解釈したが、たまたま扉がきちんと閉まっておらず、倫子が階段を駆け下りた衝撃で閉まっただけかもしれない。と、なると二人はこの階に居ない。思い直して倫子は非常階段の方へ戻ろうと向き直った。来た時の半分ほど戻りかけたところで、倫子は聞きなれない音を耳にした。
きーっきーっきーっ
それはとても小さな音で、よほど耳を凝(こ)らさなければ聞き取れないほどの小さな音だったが、都会の真中とは思えないほど静まり返ったこの場所で、神経が敏感になっている倫子には十分聞き取れた。
「何かしら?」
倫子には、その音がどこから聞こえてくるのか、その方向が分かっていた。それは給湯室の隣の女子トイレに違いない。
「蛇口がキチンとしまってないのかな?いいえそんなことないわ。ここの蛇口はみんなセンサー式だもの」
ではいったい何の音だろう?
女子トイレのドアを、なるべく音を立てないように開けた。誰も居る気配は無い。それでも中へ入ってみる。個室のドアはどれも開いたまま、と思ったら一番奥の一つが閉まっている。
ひいいいいっ
倫子はこのまま引き換えそうと思ったが、好奇心がそれに勝った。いや、それ以上にその
きーっきーっきーっ
という音が更に大きくなり、いや、きーっきーっでは無い。
いーっいーっいーっ
だ。それは悪霊の呻(うめ)き声のように、大きくなっては小さくなり、小さくなっては多きなりを繰り返していた。明らかにそれは意思を持ったものの吐息である。
よく見るとその閉まった個室のドアは鍵を掛け忘れているらしい。僅(わず)かに開いている。
「お願い、迷い込んだ猫とかでいて!」
倫子はそう願いながら、胸の前で十字を切りドアを開けた。
あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!
悪魔の叫びが鳴り響き、眩(まばゆ)い光線と風が吹き荒れたーーーーー、ということは無い。
「あれ?倫子様」
「あーーーーー!!何やってんの!?北極30えもーーーーーーん!」
「え?雛子様が倫子様から頼まれたと」
便器を跨(また)ぐようにして壁に手をついた雛子が
ぜーぜー
と肩で息をしていた。彼女のお尻にはなんと北極30えもんバイブが今まさに刺さらんとしている。いや、先っぽが少し入っている。
「ちょっとーーーー!!どういうこと」
「雛子様が『倫子さんから試してみてって言われたの』と言われましたもので」
「そんなこと言ってなーーーーい」
倫子は慌てて北極30えもんを雛子から離し、そそくさと彼のズボンを上げた。
「倫子さーんんん。お願いー。ちょこっとだけでいいから。もう駄目なの収まりがつかないの。このまま放置されたらどうにかなっちゃう」
「どうにかおなり!」
そう捨て台詞を吐いて倫子は北極30えもんの腕を牽(ひ)き、出口に向かった。
がちゃっ
と音がするので振るかえると
「絶対頂いてやるーーーんんん」
と雛子が泣き出しそうな声で呪いの言葉を呟(つぶや)いた。かつてのカーリーヘヤーと見紛(みまが)うほどウエイブの入った超ロングヘアーという変な髪形で、エロい気分が最高潮に達した気だるさと半べその表情も手伝って、雛子の様は魔女のように見えた。
「ちょおぉーこ・わ・ひ」
と倫子は思いながら、トイレを後にした。
(つづく)

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