北極30えもん12 | biko先生のマネー奮闘記

北極30えもん12

「第ニ話 秘密のプレー」その1
日曜日だというのに、六本木ピラーズのセミナー会場は人でごった返している。入居している企業の合同セミナーだからだ。
企画したのは同じく六本木ピラーズ入居組、総合インターネットサービス企業グループ株式会社家畜獣ヤプー、の親会社の関連会社ハードジャンク・インベスターズ。勝ち組みベンチャーばかりがお互い睨(にら)みを効かせ合いながら割拠(かっきょ)するこのピラーズで、同居各社に
「合同セミナー開きましょう。1社一千万の格安ですからピラーズ入居組にとっては昼飯代わりっすよ。仕切りは全部ウチでやっちゃいまーす」
と持ち掛けてくるとはいい度胸をしている。それに輪を掛けて断るのも癪(しゃく)になるような言い方が憎い。
エントランスはセミナー参加者でごった返していた。倫子が、人を掻き分けながらエレベーターの方に向かって歩いていくと、倫子の会社の社長とハードジャンク・インベスターズの社長がタバコを吸いながらこそこそ話していた。
「西尻ちゃんずるいよ。でもおれ、そういうの好き。また今度おれもずるいこと考えるから、その時はのってね」
と社長が西尻に言っているのが聞こえる。そこで、そちらの方向に顔を向けると
「あ!倫子ちゃん。ちょっと、こっちこっち」
と社長が呼ぶので、二人の方へ向かう。しかし!!そこで気が付いた。
「あ!」
「どうなさいまいた?」
「どうなさいましたって、あなたよ。まずいわ」
「まずいですか?」
「まずいわよ。『その男誰だ』って話になっちゃう。だから、ちょっとその辺で隠れてて」
そう言って沢山ある柱のうちの一本の影に北極30えもんを隠れさせた。
「やあやあやあやあやあ倫子ちゃん、おはよー。あ、この人知ってる?ハードジャンク・インベスターズのダースベイダー西尻ちゃん」
そう言われた西尻は
「ダースベイダーはひどいよ」
と軽くいなしながら倫子の方を振り向きヒューっと唇を小さく鳴らしながらウインクしてきた。倫子は内心『ゲゲッ』と思ったが、飲み込んだ。
「だってそうじゃない。正義の味方かと思ったら有り金全部持ってっちゃうんだから」
まだ社長は言ってる。余程、今日のセミナーをハードジャンク・インベスターズに仕切られたのが気に入らないらしい。仕方なく倫子は西尻に助け舟を出した。
「社長、ダースベイダーは本当に正義の人だったんですけど、色んなことで悩んで悪の道に落ちちゃったんですよ」
「ええ!?それほんと?倫子ちゃん。じゃ西尻ちゃんの方が悪者なんだ。悩んでないもん。ナチョラル・ボーン・キラーズ。ひひひ」
「おいおいそれは幾らなんでもひどいよ」
はははひひひふふふへへへほほほ
などとわざとらしい笑で話は一段落した。
「ところで西尻ちゃん。彼女、倫子ちゃん紹介します。当社のナンバーワンセクシー社員」
「イーーヤホホッーイェイ。最高に僕の好み!また会社に遊びに来てよ。33階!」
「西尻ちゃん、そのまま引き抜きは駄目だぜ」
「バレたか」
ひひひふふふへへへほほほははは
笑い方から推察するにこの二人は間違いなく仲が悪いに違いない、と倫子は思った。
「セミナーが始まってしまうので行きます。また後ほど。ほほほ」
と倫子は卒なく逃げた。
セミナー会場に付くとほぼ満員。前の方が幾つか開いているが北極30えもんと並んで座るとするなら一番前の列しかなさそうだ。
「仕方ない」
と倫子は北極30えもんを引き連れ、一番前まで歩き始めた。すると
「倫子さん!」
と通路の真中辺りで声を掛けられた。同僚の満里奈である。隣には里香もいた。二人は入社3年目でちょうど仕事にも会社にも人間関係に

も馴れ切ったところだ。まずいのに見つかった、と思ったが後の祭り。案の定
「ねえ、倫子さん一緒に連れてる人誰ですー?」
と訊いてきた。こういう場合を想定して言い訳を考えとくんだと思ったが今更仕方が無い、咄嗟(とっさ)に
「派遣の子よ。ヌットイレルから来てるの」
「ああ、44階のヌットイレル社から。へえ」
「そう」
「じゃ、倫子さんのいい人じゃないんですね」
「え!?何馬鹿なこと言ってんの?仕事よ仕事。仕事のお付き合い!」
「良かったー。私好みなんですこういう人。満里奈って言いまーす。よろしくね。うふ」
「えーえー。私も凄ーい好み。だってー福山雅治にクリソツじゃーん。わたし里香。あとで携帯のメルアド交換してもいいですかー?」
やはりこの馬鹿OLどもにあったらどう対処するか、事前に考えておくべきだった、と倫子は後悔したが取り敢えずこの場は勢いで乗り切

ることにした。
「もう始まるわよ!」
そう叱るように言い、北極30えもんの腕を引いて最前列まで歩き出した。と、その瞬間、
『誰かが見ている!?』
なにやら背筋が凍りつくような恐ろしい視線を感じた。視線の方に振り向くと彼女がいた。
「う、内田雛子!」
満里奈、里香と同期のくせに無口でとっつきにくい女。超長髪で顔にまで髪が掛かっており、その間から瞳だけが覗いている。女子社員の間では陰で「貞子」と呼ばれていた。
しかし、こういう女ほどこと男については侮(あなど)れない、と倫子は思っていた。どうやら満里奈、里香と同様、北極30えもんに興味をもったらしい。そういえば以前、彼女の携帯を覗いた時、福山雅治の写真を待受画面にしていた。
最前列ということは、今日一日、この女の視線を浴び続けなければならないのか?
『ひいいいいいいいいいいいいいいい』
倫子は恐怖におののいた。
(つづく)

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