北極30えもん31 | biko先生のマネー奮闘記

北極30えもん31

「第三話 激烈!M&A合戦」その6
『ボロ儲けだわ!』
思わず倫子は北極の首にしがみつき頬に濃厚な接吻をしていた。それはキスなどという生半可なものではない。北極の頬肉がズルズルっと倫子の口中に吸い込まれ顔の皮全体が引っ張られるような吸引力の強い、まさにセップンという接吻だった。
「ああ!倫子さん、ずるーい!」
女子社員どもが騒いだが倫子は気にしない。このまま廊下に北極を押し倒し激しく騎乗位で責めちゃおうかしら、とさえ思った。その思考は動物のマーキング行動と同じものだ。北極は誰にも渡さない、と周りの雌に宣言したようなものだ。
なにしろ北極はこれから起きることを全て知っている。と、いうことは北極の知識を元にすれば全て相手の裏を掻くことも可能だ。そうなれば社長に認められて役員昇格も夢じゃない!バカバカ倫子!いつまで人の為に働くつもり!北極の知識があれば、あなた独立して起業すべきだわ。そう、私が社長になって社員をこき使えばいい。給料なんか生かさず殺さず程度にあげて一人ぼろ儲け!できれば若いスポーツマンタイプの男を社長付けにして身の回りの世話をさせたいわ。朝から晩まで、頭の上からつま先まで、それこそ舐めるように奉仕させて、まさに社長漬け!ほほほほほほほほほほほほほほ
「倫子さん。どうしました?何か良からぬことでもお考えでは」
「何言ってるの北極!良からぬどころか、良かる、いえ、よがる?まあ、良い考えが浮かんだのよ」
「はあ?」
北極30えもんは珍しく困ったような顔をした。
『北極は幸せの青い鳥だわ。セックスばかりじゃなく、仕事の成功も齎(もたら)してくれる。あら!セックスも性交、仕事も成功。なんて奇遇なの!』
などと倫子は勝手に考えていた。
「ねえ北極。あなた、私の命令はなんでも聞くのよね」
「そのようにプログラムされています」
「じゃ、さっきのお話、もっと詳しく聞かせて!」
「駄目です」
「ええ!?なんで」
「駄目なんです」
「あなた!私の言うこと聞くんでしょ。つまり、私の使用人、私の奴隷、私のロボット」
「法律違反は出来ません」
「へ?」
「倫子さんは多分、私から未来の話しを聞いて未来を変えようとしているでしょう」
図星だった。
「でも、それは法律違反なんです。未来ではね。時空保護法というのがありましてね。未来人は過去に影響を与えてはいけないんですよ。この時代のSF小説にもそういうのよく出てくるでしょう?未来では本当にそういう法律が出来るんですよ」
「やっぱり未来が変わっちゃうから?」
「そうです」
倫子は打ちひしがれた。せっかく良いことを思い付き、薔薇色の未来を思い描いていたというのに。社長の座も、ぼろ儲けも、社長漬けの社長付けも幻に終わる。
「そんなの嫌!じゃ、なんであんたはここにいるの?それ自体がおかしいじゃない。あんたがここにいることで、今という過去が変わるでしょ!」
倫子がそう叫ぶと、北極30えもんは悲しそうな顔で倫子を見た。そして一つ溜息を付くと、倫子から目を逸らし、窓の外の風景を眺めながら口を開いた。
「それは違います」
「どこが違うって言うの!」
「倫子さん、冷静になってよく思い出してみて下さい。私が何者なのか」
「ええ?」
「私は、単なるバイブです。つまり、オナニーの道具」
「そっそっそっ、それがどうしたっていうの?オナニーくらいしたっていいじゃない」
「つまり、あなたの一人遊びの為の道具です」
「?」
「他の誰とも交わらない。貴方だけの世界の道具」
「でも、あんた今、現にここにいるじゃない。この会社に!」
「それは倫子さんが望んだからです。これもあなたの欲望の延長」
「でも、他の女子社員が!」
「皆、すぐに忘れます。私はそのように出来ています。記憶に残り難いようにね」
「え?」
「ちなみに時空保護法では、こういう場合、もう一つ決まりがあります」
「何!?まさか?」
「ご主人様が悪しきことに利用しそうになったら、即座に未来に帰る、ということです」
「ええーーー!!やっぱり!」
「さようなら倫子さん。大切にしてくれてありがとう」
「ええーーー!!北極ーーーー。イヤーーー!!」
(つづく)