北極30えもん27 | biko先生のマネー奮闘記

北極30えもん27

「栗えもんは先週、ビデオ放送業界最大手のヌッポン放送株について、テンダーオファーすなわちTOBすなわち公開買付を開始したのは新聞、TV等で報道された通りだ。ヌッポン放送の持つアダルトビデオの著作権を支配下に置く事が狙いと言われている。何しろヌッポン放送はわが国アダルトビデオ業界の80%に及ぶ著作権を有する、いわばアダルトガリバーすなわちアダルトの巨人と呼べる存在なのだ。その利権は計り知れない」
西尻はそこまで言うと
「どうする水上?」
と水上進社長、すなわち倫子の会社の社長に判断を求めた。
「ここから先は私が説明しましょう」
水上社長はそういうと顔の前に両手を組み合わせ、それで口を覆い隠すようにした。これでは喋り難いではないかと倫子は思ったが、水上は当面喋る気はなさそうだった、むしろ深い思索に入ったように目を瞑(つむ)り、俯(うつむ)くように首を下に傾けた。そのまま眠ってしまったように動かなくなったところで、どこから聞こえてきたのだろう?と倫子が辺りを見回すほど、予想外のタイミングで水上の声が聞こえ始めた。
「栗えもんの目的はヌッポン放送ではない」
はじめ倫子は空耳かと思ったほどだ。水上は相変わらず目を閉じたままの上、内容も意外なものだった。
「栗えもんが狙っているのは本丸。すなわち」
そこで水上は言葉を区切った。次の言葉を思いっきり引っ張り、そして
「プティテレビ!」
と溜息と共に吐き出した。
「栗えもんはプティテレビを買収して何を企んでるんですか?」
水上の引っ張りを遮(さえぎ)るように、倫子は事務的に聞いた。
「あ?ああ、プティテレビ買収の狙いね。それは」
と言う水上を制するように西尻が横から口を出した。
「オーバーナイトヌッポンだ!トゥルコーのオーバーナイトヌッポン」
水上社長が続けた。
「あの伝説的エログロ番組!オーバーナイトヌッポン!」
倫子は、あんまり馬鹿馬鹿しい番組なので一度も見たことが無かった。
(つづく)