北極30えもん26 | biko先生のマネー奮闘記

北極30えもん26

「第三話 激烈!M&A合戦」その1
「ちょっと、ちょっと北極!大丈夫?」
倫子はトイレの個室にいた。そして今だ小さなままの北極30えもんを手で持ち、身体を揺すってみた。
「うううーんん。あ!倫子様!済みません意識を失ってしまいました」
「アンドロイドでも意識を失いことあるのねえ」
「倫子様がおいきになられる時、あまりに強く締め付けられて、電流の流れが一時ストップしてしまったのです」
「まあ、でもそんなことでいちいち故障してたんじゃ駄目じゃない?」
「いいえ。倫子様の締め付けは規格外にございます」
「まあ!」
「もしやこの時代のバイブをお使いになっていた頃、いく際にバイブの回転が止まってしまったとか?」
「ああ、あれね。いく時ってウインウインがグイイイとかってモーターが止まる音するよね」
「いえ、それは倫子様が特別なのです。毎回毎回モーターが力づくで止められたら壊れてしまいます」
「ええ!?道理で!半年で壊れちゃうのよ。怪しいネットショップの通販で買ってるから不良品掴(つか)まされてたのかと思ってたわ!」
「いいえ。不良品などではございません。ちなみに私も首がもがれるかと思いました」
北極30えもんは首に手を当てて摩(さす)った。
「実は本体も損傷してきておりまして」
と言って股間も摩った。
そういえばこれまで付き合ってきた男どもは一様に早漏ばかりだった。三分もてばいい方で、酷(ひど)いのは入れた途端に
「もう、駄目~」
などと言っては引き抜いてダバ――ー。
「これでは人間の殿方も大変でございましょう」
たしかに。その上、倫子は長時間プレイが好きときている。バイブでオナニーする時は、三十分入れたり出したりするのが通例だ。
『これはーそのうち人間の男じゃ満足できなくなっちゃうかも』
と倫子は震え上がった。
「ところで北極、社長室に戻るけど、あなたも一緒に来てちょうだい。新しいスタッフって紹介するわ」
「承りましてございます」
倫子と北極30えもんは社長室に戻った。
「やあ、来た来た。さあ座って」
と社長が促した。不思議なのは北極30えもんについて何の質問もしない。
「あ、あの社長」
「彼のことだろ?OKだ。倫子ちゃんの見初(みそ)めた男なら文句は無いよ。ただし、当社は社員同士のセックスは禁止だよ」
「え!」
倫子は思わずうろたえた。社長はそんな倫子をじっと観察するように見ていた。
「もしかして、もうやっちゃった?っていうかやった男を連れてきたとか?」
「へ?いえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえ」
と倫子は否定し首をぶるぶる振るわせた。
「なんだか凄ーーーーーーーーーーく怪しいんだけど、今度のミッションの難易度を考えるとその位大目に見て上げないといけないかもしれない」
「たしかに。あまりに危険、あまりに過酷」
ハードジャンク・インベスターズの西尻も同意した。いったいどうしたと言うのだろう?バブル崩壊後の荒野のような日本経済にあって、無法地帯を我が物顔で闊歩し、弱者を踏み潰し強者に摺り寄り、裏切り・足の引っ張り合い当たり前、甘言と恫喝を駆使し、法の隙間の隙間、ニッチのニッチのニッチのニッチのにっちもさっちも行かないところから今日の繁栄を生み出してきたこの六本木ピラーズの雄二人が、これほど危険視するミッションとは?倫子は息を呑んだ。
「ごっくん。きゅるるるるるるるる」
さっき北極30えもんをアソコの中に収めたまま動き回ったせいか、腸が刺激されたらしい。お腹がきゅるきゅるなってしまった。
「おいおい大丈夫かい?話がこれからという時に」
「済みません。音だけです」
社長が白けたような顔をしたので、今度は西尻が口を開いた。
「倫子さん。いいかね。よく聞くんだ。今度のミッションは相手が悪過ぎる」
「相手?」
「そう!我々は勝てない喧嘩はしない、喧嘩は必ず弱者と、を心情としてきたが、今回ばかりはそうはいかない。金の鉱脈をみすみす逃す訳には行かないのだよ」
そう言うと西尻はコホンを一つ咳をした。
「しかし相手が相手なのだ」
そして西尻は社長を顔を合わせた。二人は小さく頷(うなず)きあった。
「その相手って誰なんですか?」
倫子の問いに、二人の男は容易に答えない。しばし沈黙が続き、深刻な上にも深刻な雰囲気が盛り上がったところで、社長が口を開いた。
「その相手とは栗えもん。バイブモアのCEO兼会長兼社長兼総帥だ。その牙城を突き崩すのは何人にも不可能」
「まさにミッション・インポッシブル」
西尻が後を続けた。
(つづく)