総集編11~15回 | biko先生のマネー奮闘記

総集編11~15回

★11「第一話 バイブえもん登場!」その11
「・・・ということで、70年代後半から80年代前半のアメリカは南部重工業産業界いわゆる六つの柱、シックス・ピラーズと呼ばれる集団と、もう一方でニューヨークを中心とした新しい産業、ソフトウエア産業界を中心にした東部エスタブリッシュメントの2大勢力が凌(しの)ぎを削っておった訳で、例えば大統領選挙においても共和党、民主党というイデオロギーをベースにした支持というものより、投票の動向に大きな影響力を与えた訳であります・・・」
おやじの思い出話?と思われるようなセミナーを聞いて何になるのだろう?と倫子は思った。講師は日本のトップ・シンクタンク丸光総合研究所の主任研究員。よくテレビに出てる。でもジジイだ。
「ニクソン大統領が『フロー』と口にしたことにより、世界経済は一気に固定相場制から変動相場制へと・・・・」
これは中学校の歴史の授業だろうか?今日の演題は「温故知新ふるきをたずねてあたらしきをしる経済セミナー」。たしかに歴史を知ることは大切だが、こんな話を延々5時間も聞かされては忍耐も限界だ。
また時折、
「ヘンリーがね。僕に言うんですよ『本音は逆なんだよ』ってね。それでこれは見方を誤ったら大変だと・・」
とか
「JKから直接、電話を貰ってね『君にだけに教える』ってね。そしたらね・・・」
とか
「ジャックはね、大胆な中にも繊細な男でね。キャディーに言うのよ『1インチフックと言ったが、1・2インチの間違いだったな』って・・・」
とか、多分、全部その当時の偉い人の話してるんだろうと思うが倫子は全く知らなかったし、知りたくも無いと思った。だって、こいつの自慢話に何時間付き合わせるんじゃー!!と思っていたからだ。
などという先週のセミナーの話を思い出しながら倫子は明日のセミナーに提出するレポートをまとめていた。
「大変でございますね」
「もうほんと!馬鹿みたい」
「でも大切な知識ではないのですか?」
「まあジジイのご機嫌取りには大切だわさ」
「大分ストレスがお溜まりのようで。肩でもお揉みしましょうか?」
もみもみもみ
「ああ、ねえーん。胸も。お願い」
もみもみもみ
「あっ、ふーん」
もみもみもみ
「気持ち良くなって来ちゃった。ねえ、またやって」
「お仕事の途中では?」
「いいのよ。こんなの。後で適当に資料から書き写せば。それよりなんかとろーんとしてきちゃった。チューして」
ぺろぺろぺろ
ぺちゃぺちゃ
「ああふーんん。もう・・・」
くにょくにょくにょくにょ
ねっこねっこねっこねっこ
「ああ!!またぱんぱんが!!」
ぱんぱんぱん
「ふーっ、またいっちゃった」
「少しお休みになったら、お仕事しませんとまずいんじゃ?」
「えー!?余韻に浸ってるのに無粋なこと言わないで!」
「しかしご子孫様によりますと、倫子様は大学受験の際、オナニーのし過ぎで一浪なさったと」
「ええ!?なんで知ってんの?」
「ご子孫様は未来から見ております」
「やだー!プライバシーの侵害!個人情報保護法違反よ。本人の同意無いじゃない」
「未来にそのような法律はございません」
まあいいや、と倫子はむくれながらも再びレポートに取り掛かった。
「ねえ、北極30えもんってセックス以外に何か出来ないの?」
「まあ、基本的にバイブですから」
「そうよね」
「まあ、レポートくらいなら書けます」
「ええ!?ほんと?」
「はい。なにか素材をいただければ」
「えーと、前回のセミナーで配布された資料はこれと、これかな」
「はい、ちょっと見せて下さい」
そう言うと北極30えもんは5秒ほどで資料に目を通した。
「このパソコンのUSBの差込口はどちらです?」
「えーと、後ろ側」
「ああ、ここですね」
おもむろに北極30えもんはズボンを下ろした。
「ああ!またするの!?情熱的で素敵!」
「いいえ、USBへ差し込むんです」
見るとペニスがUSBのオスになっていた。
「あれ?ちっちゃい」
倫子がそういう間に北極30えもんはUSBペニスをパソコンのUSBソケットに差し込んだ。
ういんういんういんういんういんういんういんういんういん
「ちょっとー何この音ー!?あんたパソコンとセックスしてるんじゃないでしょうね?」
「データをインポートしてるんです」
「やっぱりインサートしてるんじゃない!?」
「ふー、終わりました」
「もう。パソコンにインサートするなんて変態!!」
「ではプリントアウトしてみて下さい」
がちゃこんがちゃこんがちゃこんがちゃこん
「ああ!?ちゃんと出来てる。凄いじゃない!」
「どういたしまして」
「こりゃ使えるぞ。週明けからこっそり北極30えもんを使って仕事しよ。いや、明日のセミナーに連れてこう。ひひひ」
(つづく)
★12「第ニ話 秘密のプレー」その1
日曜日だというのに、六本木ピラーズのセミナー会場は人でごった返している。入居している企業の合同セミナーだからだ。
企画したのは同じく六本木ピラーズ入居組、総合インターネットサービス企業グループ株式会社家畜獣ヤプー、の親会社の関連会社ハードジャンク・インベスターズだ。勝ち組みベンチャーばかりがお互い睨(にら)みを効かせ合いながら割拠(かっきょ)するこのピラーズで、同居各社に
「合同セミナー開きましょう。1社一千万の格安ですからピラーズ入居組にとっては昼飯代わりっすよ。仕切りは全部ウチでやっちゃいまーす」
と持ち掛けてくるとはいい度胸をしている。それに輪を掛けて断るのも癪(しゃく)になるような言い方が憎い。
エントランスはセミナー参加者でごった返していた。倫子が、人を掻き分けながらエレベーターの方に向かって歩いていくと、倫子の会社の社長とハードジャンク・インベスターズの社長がタバコを吸いながらこそこそ話していた。
「西尻ちゃんずるいよ。でもおれ、そういうの好き。また今度おれもずるいこと考えるから、その時はのってね」
と社長が西尻に言っているのが聞こえる。そこで、そちらの方向に顔を向けると
「あ!倫子ちゃん。ちょっと、こっちこっち」
と社長が呼ぶので、二人の方へ向かう。しかし!!そこで気が付いた。
「あ!」
「どうなさいまいた?」
「どうなさいましたって、あなたよ。まずいわ」
「まずいですか?」
「まずいわよ。『その男誰だ』って話になっちゃう。だから、ちょっとその辺で隠れてて」
そう言って沢山ある柱のうちの一本の影に北極30えもんを隠れさせた。
「やあやあやあやあやあ倫子ちゃん、おはよー。あ、この人知ってる?ハードジャンク・インベスターズのダースベイダー西尻ちゃん」
そう言われた西尻は
「ダースベイダーはひどいよ」
と軽くいなしながら倫子の方を振り向きヒューっと唇を小さく鳴らしながらウインクしてきた。倫子は内心『ゲゲッ』と思ったが、飲み込んだ。
「だってそうじゃない。正義の味方かと思ったら有り金全部持ってっちゃうんだから」
まだ社長は言ってる。余程、今日のセミナーをハードジャンク・インベスターズに仕切られたのが気に入らないらしい。仕方なく倫子は西尻に助け舟を出した。
「社長、ダースベイダーは本当に正義の人だったんですけど、色んなことで悩んで悪の道に落ちちゃったんですよ」
「ええ!?それほんと?倫子ちゃん。じゃ西尻ちゃんの方が悪者なんだ。悩んでないもん。ナチョラル・ボーン・キラーズ。ひひひ」
「おいおいそれは幾らなんでもひどいよ」
はははひひひふふふへへへほほほ
などとわざとらしい笑で話は一段落した。
「ところで西尻ちゃん。彼女、倫子ちゃん紹介します。当社のナンバーワンセクシー社員」
「イーーヤホホッーイェイ。最高に僕の好み!また会社に遊びに来てよ。33階!」
「西尻ちゃん、そのまま引き抜きは駄目だぜ」
「バレたか」
ひひひふふふへへへほほほははは
笑い方から推察するにこの二人は間違いなく仲が悪いに違いない、と倫子は思った。
「セミナーが始まってしまうので行きます。また後ほど。ほほほ」
と倫子は卒なく逃げた。
セミナー会場に付くとほぼ満員。前の方が幾つか開いているが北極30えもんと並んで座るとするなら一番前の列しかなさそうだ。
「仕方ない」
と倫子は北極30えもんを引き連れ、一番前まで歩き始めた。すると
「倫子さん!」
と通路の真中辺りで声を掛けられた。同僚の満里奈である。隣には里香もいた。二人は入社3年目でちょうど仕事にも会社にも人間関係にも馴れ切ったところだ。まずいのに見つかった、と思ったが後の祭り。案の定
「ねえ、倫子さん一緒に連れてる人誰ですー?」
と訊いてきた。こういう場合を想定して言い訳を考えとくんだと思ったが今更仕方が無い、咄嗟(とっさ)に
「派遣の子よ。ヌットイレルから来てるの」
「ああ、44階のヌットイレル社から。へえ」
「そう」
「じゃ、倫子さんのいい人じゃないんですね」
「え!?何馬鹿なこと言ってんの?仕事よ仕事。仕事のお付き合い!」
「良かったー。私好みなんですこういう人。満里奈って言いまーす。よろしくね。うふ」
「えーえー。私も凄ーい好み。だってー福山雅治にクリソツじゃーん。わたし里香。あとで携帯のメルアド交換してもいいですかー?」
やはりこの馬鹿OLどもにあったらどう対処するか、事前に考えておくべきだった、と倫子は後悔したが取り敢えずこの場は勢いで乗り切ることにした。
「もう始まるわよ!」
そう叱るように言い、北極30えもんの腕を引いて最前列まで歩き出した。と、その瞬間、
『誰かが見ている!?』
なにやら背筋が凍りつくような恐ろしい視線を感じた。視線の方に振り向くと彼女がいた。
「う、内田雛子!」
満里奈、里香と同期のくせに無口でとっつきにくい女。超長髪で顔にまで髪が掛かっており、その間から瞳だけが覗いている。女子社員の間では陰で「貞子」と呼ばれていた。
しかし、こういう女ほどこと男については侮(あなど)れない、と倫子は思っていた。どうやら満里奈、里香と同様、北極30えもんに興味をもったらしい。そういえば以前、彼女の携帯を覗いた時、福山雅治の写真を待受画面にしていた。
最前列ということは、今日一日、この女の視線を浴び続けなければならないのか?
『ひいいいいいいいいいいいいいいい』
倫子は恐怖におののいた。
(つづく)
★13「第ニ話 秘密のプレー」その2
「ピーターが忠告してくれた訳です。『重要なのはマネジメントだ』とね。そこでズビグニューに電話しましてね、事なきを得た訳です・・・」
お年寄りと言うものは何故にこうも昔話が好きなのか?ピーター?WHO?ズビグヌー?呂律(ろれつ)が回らない。
「あああ、もう嫌やややや」
と倫子が北極30えもんの耳元で小声で言った。
「大変でございますね」
「あなた飽きない?」
「スリープモードに入っております」
「え!?寝てるの?」
「言わば半寝です。声を掛けらた瞬間に再起動します」
「羨(うらや)ましいなー。私もスリープモードに入りたいよ」
そう口にして顔を上げると講師の爺さんと目が合った。どうやら聞かれてたらしい。爺さんは
コホン
っと一つ咳(せき)をすると無視して話を進めた。たしか同じ六本木ピラーズに入居するリャーメンシスターズ投資顧問のお爺さん。昔は国の偉いお役人だったらしい。もう昔の栄光を振り回すような自慢話はやめてくれー、っと言いたいところだが、相変わらずこの人たちが日本の政治・経済・行政に対し強い発言力を持ってるのは間違い無い。下手にご機嫌を損ねるとどんなところから嫌がらせされるか分からない。こういう類の人たちは、自分の力でどれだけ法や道理を曲げられるかを誇示する、という非常に立ちの悪い性質をもっているのだ。
つまりこのセミナーも、本質的には彼の話の内容はどうでもいい話で、こういうつまらない老人なんだけど昔は偉かった人のくだらない話でも我慢して聞けるような忍耐力を鍛えましょう、というのが趣旨なのだ。
それにしても
「写経でもやった方がましだわ」
と倫子は思った。ふと、横を見ると北極30えもんから何やら小さな音がしている。
カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ
「ななな、何?壊れちゃったの?」
と言うと北極30えもんが
「いえ、倫子様がお疲れのようですので、わたしが全て記憶しておこうと思いまして」
「え!?そんなこと出来るの?」
「簡単でございます」
「えー、じゃ、お願いしちゃおうかな」
「承りました」
しかし、かと言って、ここから帰る訳にはいかない。会場後方の出入り口を見ると社長とハードジャンク・インベスターズの西尻社長が談笑している。どうせ良からぬ企(たくら)みの相談でもしてるに違いない。
「うーん」
帰る訳にもいかず、しかし北極30えもんが全て記憶してくれるので、特に聞く必用も無い。しかし、あと4時間ほどのこの退屈な時間をどう過ごせば良いのか?
「やっぱり写経の方がましだわ」
最前列にいるだけに寝る訳にもいかない。まして先ほど講師の爺さんから咳払(せきばら)いされたばかりだ。
「退屈なご様子ですね」
「死ぬわよ」
「では、お手を拝借(はいしゃく)」
「え?拍手でもするの?」
「いえ、お手のマッサージ機能がございます」
「へー。まあ暇だからお願いするか」
「承りました」
きゅっもみもみもみもみ
あれ?なんか気持ち良い
ゆびからませからませ
ああんんん、指を絡(から)ませられるとなんか感じてきちゃう
つぼを押します
ぐいっぐいっぐいっぐいっぐいっぐいっぐい
ああっあふんなにこれ、変な気持ちになってくる
手の上の方が頭のつぼで、下の方が足のつぼなんですよ、今は真中をおしてます
ってことはあそこのつぼを
そうです
あんあんあんあんあんあん声が出ちゃう
ガチャン!!
堪(こら)えが聞かなくなったところで、倫子は腰掛からひっくり返りそうになった。講師の爺さんは一瞬、言葉を止め倫子の方を見たが突然頬(ほほ)を赤らめると、再び一つ咳払(せきばら)いし、何事も無かったように話を再会した。
倫子は、まずい!、と思い身体を伏(ふ)せたまま会場を見回した。なにしろこんなお堅いセミナーの最前列で指を揉まれいってしまったものなどかつていないに違いない。しかし、おそるおそる振り向いて見たが既に誰も倫子を気にしている様子は無い。皆、他人のことにはさほど関心が無いということだろう。
「ねえ駄目。北極30えもん。もうもわんとなっちゃって。おさまり付かなくなっちゃったよ。なんとかして」
「そうですね。それでは取り外しましょうか?」
「取り外す?」
「ええ、本体は取り外し式になっております」
「本体とは?」
「これにございます」
そう言って北極30えもんが差し出したのは、男性のそれと同じ形をしたあれであった。
「ああ!!これはバイブ!!」
「はい、スイッチはですね。こことここです」
「Oh!Ye-----s」
そう小声で言うと倫子は北極30えもんの本体をバッグにしまい、トイレに行く振りをして席を立った。どうせ誰も関心など持つまい、ふふん、っと倫子が微笑んだ瞬間、鋭い眼光が目に入った。
「内田雛子!」
長い髪のあいだから恐ろしいほど強く輝く目が覗いていた。
「ひいいいいいいいいいいいいいいいいい」
(つづく)
★14「第ニ話 秘密のプレー」その3
にゅぷっ
ういいんういいんういいんういいん
あぷっ
ういいんういいんういいんういいんういいん
うっぷっ
ういいんういいんういいんういいんういいんういいん
おお!!
ういいんういいんういいんういいんういいんういいんういいん
うぎゅぎゅ!っんん
ふーーっすっきり
『北極30えもんの本体が取り外し式で良かったわー。はあ、すっきりしちゃった』
倫子はしばし便座に座り余韻を楽しむと、そそくさと北極30えもんの本体をハンドバッグに仕舞い込んだ。パンティとストッキングを上げ、スカートを降ろし、衣服を整える。タイトスートをたくし上げていたせいで、少し皺になってる。その皺がちょっと卑猥に見えて恥ずかしかったが仕方ない。倫子は、昨夜の食べ合わせが悪くお腹が絶不調で長時間便座に座り続けてしまった、と言い訳しようと思った。それにしてもオナニーじゃなくてうんちなのよと言い訳するというのも変な話だ。
取り敢えず衣服が整ったところで、個室から出て洗面台まで行き、鏡を見て顔を点検した。少し紅ら顔。というより上気している。そして目尻が下がって、口が半開き。額の髪の生え際にうっすらと汗までかいている。明らかにセックスをした後の顔だ。しかし
「あ!あの人セックスしてきたんだー!」
とか言われるならいいが
「あ?あの人セックスして・・・いえ、会議中だものそんな筈無いわ。たしかトイレへ行っただけ。じゃあ?ええ!?もしかしてオナニー!?いやだー恥ずかしい」
などと思われたら最悪だ。
深呼吸し、呼吸を整え、汗を拭(ぬぐ)い、ファンデーションと口紅を塗り直す。実はオナニーの時、唇を舐(な)める癖があるので口紅が全て無くなってしまっていた。
「いやーこりゃ生生しいわ」
一応、証拠隠滅は万全の状況になったところで、顔を上げ、もう一度お顔をチェック、しようと思ったら鏡に映った自分のすぐ背後にもう誰かが立っている。
『え?私独りの筈』
ぞおぉぉぉぉぉぉー。背筋が冷たくなるのを感じた。
『誰!?』
と叫んだ声は声にならなかった。
その背後の女は、海草のように長い髪は腰の辺りまで伸び、前に立つ倫子を覆い包むかのようだ。女の顔もその長い髪に隠されたまま。
そう言えば新人だった頃、聞かされた事がある。同僚の若い娘に男を三人連続寝取られ、このトイレで首を吊って死んだOLがいる、と。
間違い無くそのOLに違いない。重要なセミナー中にこともあろうかバイブを持ちこみ、たっぷり30分もオナニーをしていた倫子を見かね、化けて出て来たに違いない。
ひいいいいいいいいいい!!
「あーーーーーーあれ?雛子?」
内田雛子だった。
「何してんのよ!?こんなとこで。人のオナっじゃ無かった、ええーっと、御用足しを覗いてたんじゃないでしょうねー?」
「えええ?何言ってるんですか。たった今トイレに来ただけですよー。もう倫子さったら大袈裟なんだから」
「本当?」
怪しい。こいつは怪しい。だいたいそう言いながらも雛子の視線はハンドバッグを見ている、と倫子は思った。
『北極30えもんの秘密は決してあばけなくてよ!!』
(つづく)
★15「第ニ話 秘密のプレー」その4
雛子は何時からトイレにいたのだろう?だいたい、何をしにトイレに来たのだ?重要なセミナー中にトイレでオナニー、それもバイブを使ってしまった後ろめたさも手伝って、倫子の頭の中はぐるぐるとフル回転した。
もしや会場の後ろの席から、北極30えもんがズボンの中へ手を入れ
本体を外す
 ↓
倫子に渡す
 ↓
倫子がハンドバックにしまう
 ↓
倫子はそ知らぬ顔でトイレへ、
という一連の流れを覗いていたのだろうか?そうして最後の
 ↓
トイレでオナニー
、という決定的場面を覗き見していたのだろうか?いいや個室の形状からして上にでも登らない限り見えない。では?
聞き耳を立てていた!
バイブの齎(もたら)す快楽に陶酔し、思わず口唇から漏れ出た喘ぎ声に聞き耳を立てていたんじゃ!?
最悪。なんていやらしいの!
と倫子は思ったが、いやらしいのは倫子の喘ぎ声の方であり、想像しただけで恥ずかしくなった。
廊下を歩きながら気が重くなった。声を上げていたかどうかと言われれば、たかがオナニーであるし、誰もいないとはいえ公衆のトイレである。そんな大声を上げた訳は無いだろう。しかしいった瞬間は、いつものことだがそこだけ記憶が飛んでいる。以前、お付き合いしたA君から
「倫子さんって激しくって素敵」
と言われたので
「え?そんなに激しく動いてないと思うけど」
と返したら
「いく時凄いじゃないですか『あーああーーーーー!』って大声あげてターザンみたいでしたよ」
「ターザン!」
「ええ、野性的で素敵でした。僕も燃えちゃいましたよ」
「うう、」
ターザンのような声とはどんな声だったのだろう。以来いく時、自分がどのような声を上げるのだろう?と気にはしていたものの、いざその時になるとあまりの気持ち良さに我を忘れてしまう。
「う~ん。ま・さ・か」
倫子は頭を抱え廊下の窓から覗く都会の風景に見入った。夥しい数のビル群、まるで海だ。ビルの海、海の中にビルが林立していると言おうか、ビルの波に都市が覆われていると言おうか、いずれにせよこの中には途方も無い数の人間が棲息しているのだ。
「中にはオナニーの声を同僚に聞かれちゃった人だっている筈だわ」
と思うと気が楽になった。すると突然、
あああーーああああああーーーー
ターザンの声!振り向くと雛子!やはり雛子は自分のターザンのような声を聞いていたのか!?
「何!?何なの!?人を馬鹿にしてるの!?」
倫子が睨(にら)むと雛子は
「え?何怖い顔してるんですか?倫子さん」
「だってあなた今、私のターザンの声を」
「え?ターザン?」
「『あーああーー』って」
「ああ、あんまりお天気がいいから、つい大声出したくなっちゃって。セミナー退屈でしょ、だから。ごめんなさーい」
悪霊のように長い髪を腰まで垂らしてるくせして、話すとお軽い調子というのがなんともアンバランスな女だ。窓から差し込む陽光を眩(まぶ)しそうに見上げながら雛子は手で髪を梳(す)くった。ワカメのような髪の中から彼女の顔が現れる。それまでの暗い印象からは想像できないほど華やかで可愛らしい顔をしている。彼女に篭絡(ろうらく)されたと噂される男達が決まって
「雛子ちゃんって井川遥に似てるよね」
というのも納得できる。ボディも、腰まで掛かった髪に邪魔されてよく分からなかったが、なかなかのナイスバディ。
「倫子さんこそ何やってるんですか?早く戻らないと叱られますよ」
「え!ええ?そうね」
倫子はうろたえた。雛子は事実を知っててとぼけてるのだろうか?続け様に雛子は言った。
「ねえ、倫子さんの連れてきた男の人、バイトなんかじゃ無いでしょ」
そうして雛子はそのナイスボディで倫子を壁に押し付けた。倫子は雛子のボディと壁の間で身動き出来なくなってしまった。
「ちょっと!何するの?」
すると雛子は倫子の耳にべったりと唇を付け
「あの人は何か特別な人。それと不思議なんだけど倫子さんのそのバックから彼の匂いがするの。何故?」
鋭い!雛子は霊能力者だという噂を聞いたことがある。もしやその能力で北極30えもんの秘密をうすうす感づいているのだろうか?
「ねえ、一度お話させてくださいよー」
と雛子は倫子の顔を舐めるんじゃないかというほど顔を寄せて、そう囁いた。
「ね、倫子さんお願い。誰もいない廊下でこんな風にあんまり長く話してると私たちレズだと思われちゃいますよ」
たしかに、灰皿掃除のお爺さんが不自然なほどこちらを無視して黙々と吸殻をバケツに集めている。
「お願い。倫子さん。雛子、気になって眠れなくなっちゃうかも」
そう言って雛子は斜めに顔を寄せてくる。このままではディープキスまでされてしまいそうだ。
「こ・わ・ひ」
我知らず倫子は小刻みに頷(うなづ)いてしまった。
(つづく)