総集編1~5回 | biko先生のマネー奮闘記

総集編1~5回

★「第一話 北極30えもん登場!」その1
『今日から三回以内に抑えないと』
と倫子は思った。
『このままでは動物になってしまう』
と。

昨夜、おかしな夢を見た。朝、目覚めたら自分が芋虫になっていたのだ。カフカの変身じゃあるまいし、と夢の中で白けていたら、その芋虫が突然、
ウイーンッウイーンッウイーンッウイーンッウイーンッウイーンッウイーンッウイーンッ
うねるように動き始めた。
『なんか気持ちよさそう』
と思ってみていると、
ビクッビクッ
と痙攣し、先っちょから
どびゅーーーーーー
っと白い液体を噴出した。
『ああっ!!射精した』
と何故か夢の中で思った。
『オナニーのし過ぎでバチが当たった!?それでこんな変な虫にされちゃったの!?』
と背筋が寒くなったところで倫子は目が覚めた。既に陽は上がり、カーテンを開け放った窓いっぱいに朝日が差し込んでいた。
ウイーンッウイーンッウイーン
目を覚ましたというのに夢の続きのように音が鳴り響いていた。なんだろう?と思って倫子は辺りを見回したが、そんな音を発しそうなものは見当たらない。携帯をバイブレーション・モードにしたままだったかと思ったが、枕元に転がる携帯はピクリとも動いていない。しかし、現に機械音は聞こえる。倫子は耳を頼りに音の出所を探した。それはどうやら倫子が今居るベッドの上、それも倫子の尻の下辺りから聞こえる。倫子は尻を浮かせた。しかし、尻のあった場所には何も無い。
『うん?』
と倫子は首を傾げた。音はどうやら上に移動したようだ。その場所は、また尻。尻について音が移動している。それにしてもあのような大きな機械音はそこそこの機械器具出なければ発する筈も無い。
不信に思った倫子は恐る恐る自分の尻を触った。
ぷっぷっぷっぷっぷっぷっぷっぷっぷっぷっぷっぷっぷっぷっぷっぷ
「きゃっ!」
何かが自分の尻で震えていた。それは硬く、そして太い。震えながら大きな動きもしている。
「こ・れ・は」
倫子はごくりと唾を飲み、こめかみに一筋の汗を流した。どうやら悪い予感は当たったらしい。いや大当たりとさえいえる。音の正体は、やはり倫子愛用のバイブだった。
昨夜、飲んで帰った勢いでバイブでねちねち弄っているうちに気持ち良くなったところまでは憶えているがそこから先の記憶が無い。というより、深くいったところで意識が闇に囚われたのを憶えている。
つまり、入れたまま寝てしまったのだ。こういう失敗をすると自己嫌悪に陥るものだ。倫子もすっかりしょげ返ってしまったが、朝から落ち込んでいる訳にもいかないので、気を取り直してシャワーでも浴びることにした。
ベッドから立ち上がり股間に手をやると異物感があった。倫子はベッドに片手を付いて宙に尻を突き出す姿勢をとり、尻からバイブを引き抜いた。
ヌッポッ
と湿った音がした。ちょうどその姿が姿見に映った。モデルばりに脚が長く、グラビアアイドル並に尻がツンと上を向いている。そんな倫子のベッドに手を付き尻を突き出すという動物的な姿勢は、女の倫子自身から見てもとても官能的だった。
そんな自分のお尻に見とれていると、姿身の中に時計が映っているのに気が付いた。
『五時半?』
振り返って時計を見ると七時半だ。
「やっべーっ」
慌ててシャワーを浴び、アパートを飛び出したのだった。

そんな日の夜、久しぶりに早く帰宅した。カンチューハイ片手に窓を開け、星空を見ながら倫子は大いに反省していた。
『まあ女の場合、身体に良いこととはいえ、いくらなんでもやり過ぎだわ』
思えばほぼ毎日、寝入りばなと起き際にしてる。生活習慣になってしまい、いってからでないと寝れない。朝は朝で、寝起きは何故かあそこが火照っている。男性には朝立ちがあるというが、女にもあるのだろうか、と思うほどそこが充血しているのだ。で、つい指が伸びてしまう。あと土日に細かい資料整理の仕事を持ち帰った時など、パソコンに向かっただけで何やらもやもやし、一仕事する前にひといき。それで小一時間仕事してまたもやもや、またいってまた仕事、などということを繰り返してしまう。
そんなこんなで平日一回、土日五回はしてる。つまり週に二十回!冷静に考えると、いや、どう考えても多すぎる気がする。
『生身の男性を受け入れるところだもの。まずいわ』
と反省もした。思えばここ数ヶ月、いやもう一年近く男日照りだった。日照りというと語弊がある。男が出来なかった訳ではない。仕事が忙しくて男を作れなかっただけだ。
だいたい男って生き物は付き合うと面倒臭いもので、格好ばっかり付けてる。そのくせ入れたかと思うと三擦り半でドバーッか、ふにゃふにゃで
「あれ?おかしいな」
と言ってお仕舞いだ。だから半年くらいで違う男とチェンジしてしまう。
他の女たちは一人の男とよく長く付き合っていられる、と感心するが
「倫子はあんまり美人だから男性が緊張しちゃうのよ」
とは褒め言葉なのか。
『そんなにさ、格好いい人でなくてもいいのよ。優しい人なら。でも糞真面目なのは嫌だな。面白い人でなきゃ。それとやっぱりあれは大きくって元気な方がいい。やっぱり硬いといき具合が違うもんね。それと奥にあたるだけの長さは欲しい。神様、硬くて長い人でお願いしまぁす。ってお願いすれば降ってくるんかいー!?』
そんな日が誰にも訪れることは多分、いや絶対無い。しかし、どうした運命の悪戯か彼女の前にその日は来たらしい。
「よっこらしょっと」
ここは二階というのに、知らぬ間に若い男が窓枠に手を掛け、這い上がってきた。
「ちょっとちょっと何々!?泥棒?でもなんかあなた凄い私の好みなんだけど」
「ご注文承(うけたまわ)りました者です」
「なぬ?出張ホストを頼んだ憶えは無いんだけど」
「ええ?憶えが無い?お客様、困ります。そんないい加減なこと言われては」
「だって頼んでないもの」
倫子がそう言うと、彼は困ったような顔をしたまま首から下げたペンダントを開き何やらぶつぶつ言っていた。その間ずっと片手で窓枠からぶら下がったまま。きっと学生時代体操部にでも居たんだろう。あるいは今流行りのフリークライマーか?しばらくして彼は
「なんだそうか!そうだったのか!!」
と独り言を言うとまた
「よっこらしょ」
と言って、勝手に倫子の部屋に入り込んで、窓際に正座して座ってしまった。知らない男が断りも無く部屋に入ってきたものの少なくとも見かけは倫子の大好物、タレントの福山雅治にそっくり。或る意味、飛んで火に居る夏の虫で、このまま只で帰さない為にはどうすれば良いか、などと脳をフル回転させてしまった。
「取り敢えず半年ほど居ます」
と彼。
「え?ええ?」
倫子は内心、嬉しいような、しかしここは一応、大人の女であるか良識を見せなくてはなるまい、と思い
「ちょっとあんた何者?勝手に人の部屋に入ってきて、尚且つ『半年居ます』だあ~!?(ちょっと格好良いからって)失礼してんじゃない?」
倫子がそう詰め寄ると彼は頭を掻きながら、真顔で言った。
「ご理解できないのは当然だと思います。私、未来から来たんです」
「未来?未来ってどこのお店?新宿?池袋?それとも浅草だったかしら?」
「ああ、たしかにこの時代で言えば出張ホストクラブみたいなもんですが、24世紀の未来のお店なんですよ」
「24世紀っていう名前なの、あなたのお店?」
「いいえ、よく聞いて下さいね。24世紀のあなたの子孫が今の貴方の境遇を不憫(ふびん)に思って私を送ってよこしたのです」
「24世紀の私の子孫が?あなたを送った」
「そのとおり」
「じゃ、あなたター○ネーター?」
「いいえ違います」
「じゃあ何?」
「私は北極30えもんと申します。女性のお独り寝のお供をするロボット型バイブです」
(つづく)

★「第一話 バイブえもん登場!」その2
あんあんあんあんあんあんあんあん
きゃんきゃんきゃんきゃんきゃんきゃん
えーんえーん
ううう、、、
あ、おおおおおおおおおおおおお
ふーーーーー
おやすみ、ぐー、ぐー、
ジリリリリリリリ
『ん?朝?明るい、朝だ。なんか昨日はすごっく激しいセックスした夢見ちゃったなー。島流しにあって以来、自粛してたからやっぱ欲求不満
なのね。そういえばすごく私好みのイイ男出てきたよね。たしか「バイブくん?」。完全に欲求不満だー。私を憐(あわ)れんだバイブの精が男性の
姿を借りて私の前に現れたのかしら。それであんなに私の中を激しく突いて。ってやばいなー』
「おはようございます」
「ひ!?あんた誰?」
「え?昨日もご説明した筈ですが」
「ああ!?バイブくん?本当に居たの夢じゃなかったのね」
「あの、北極30えもんです」
「そうね、バイブの精だったかしら」
「いえ、未来からあなたの子孫に送り込まれて来た」
「ああ、ター○ミネーター」
昨日と同じ展開だった。倫子は格好いい男も好きだったが性的な趣向として筋肉隆々のボディビルダーのようなカラダも好きだった。
「はあ、本当に居たんだねー。でも、本当はあなたどっかの出張ホストでしょ。誰かが私に一晩プレゼントしてくれたのかしら。誰だろう?お母さ
んってことないし」
「あなたのお母さん、そんなこと聞いたら越し抜かしますよ。真面目ないい人なんですから」
「え?私のお母さん知ってるの?」
「直接は知りませんが、昨夜あなたのお相手をさせて頂いた際に、貴方の記憶の一部を覗かせて頂いたのです」
「えー!?じゃやっぱ貴方としちゃったのねー。夢じゃ無かったんだ。道理で気持ちよかった筈だわ。お陰で久しぶりに良く眠れたわ」
「どういたしまして」
「でも、人の記憶を覗くなんてどういうこと!酷(ひど)いじゃないの。プライバシーの侵害だわ」
「ええ、ただお客様の趣味趣向をよく理解しませんと。その為の必要最小限の情報だけ見せて頂きました」
「まー、嫌ねえ。お店に苦情言っとくから。後で何見たか教えて頂戴ね。取り敢えず朝は急がしいのよ。こんな辺鄙(へんぴ)なアパートに暮らし
てるから六本木ピルズの会社まで結構かかるの」
「そう思って、朝食を用意しておきました」
「まあ、気が利くじゃない。でも、そんな時間は無いの!」
「まだ五時半ですよ」
「ええ!?何で?やっぱり満足して寝ると熟睡できるのかしら?」
「ええ、良くお休みでした」
「まあ恥ずかしい」
倫子は昨夜の自分の痴態を思い出し、小さくほくそえんだ。
(つづく)
★「第一話 バイブえもん登場!」その3
「はあ、久しぶりに健康な朝だわ。たっぷり朝ご飯食べちゃった。あなた料理上手なのね」
倫子の通勤の為、スーツに着替え始めた。
「ええ一応、長期間のお勤めもありますので」
「長期間のお勤めというと、もしや愛人契約みたいな奴?」
「まあ、そんなものですね。一人のお客様に一定期間お使えする訳です」
「ほほー。でも高いんでしょ?」
「そうですねえ。ただ、量産型ですから購入しても二、九八○円」
「ええ!?じゃノーマルなバイブと同じくらいじゃない!?」
「そうですね。まあ、私の祖先はそのバイブですから」
「まあ!?あれがこんな風に」
「そうですね。最初、男性器の形をしただけのものが電動になって女性のお好みの動きが出来るようになり、その後、ぬいぐるみの股間にそれが付いてぬいぐるみを抱きしめながら出来るようになりました。ここまでは現代の話です。そこから今度は男性の腰を模(かたど)ったゴム製の模型の股間に装着されたのです」
「ええ!?腰だけなの?」
「ええ、殿方の腰を抱えながらいきたいという女性の要望が多かったものですから」
「なるほどね!」
「しかしすぐに男性の胴体のゴム製模型も必要になりました」
「ほほう?」
「やっぱり首にもしがみ付きたいと」
「分かる分かる」
「しかし程なく、手足も」
「やっぱり」
「抱きしめて欲しい、と」
「そうだよね。で、結局アンドロイドになっちゃったんだ」
「いえいえ、そんなに簡単にはいきませんよ。だいたいアンドロイドの開発は宇宙探査用に行われたものです。バイブが進化した訳では無いのですよ」
「そりゃそうだ!」
「もっともバイブ業界がアンドロイドを活用するようになってから、人工皮膚や肉の代わりとして使う弾性ゴムは飛躍的な進化を遂げました。また、人口海綿体もバイブ業界が作ったんですよ。それも私の製造元であるTOMOTAが開発したんですよ」
「すごーいい。それで人間の男性みたいに大きくなったり小さくなったりするんだね!」
「そうです」
「道理で感触が生々しかったわー。バイブって気持ち良いんだけど硬くてちょっと痛いのよね」
「TOMOTAの技術がそれを100%解消致しました」
「やったーTOMOTAばんざーい!」
「いえ、TOMOTAの技術はそんなレベルではございません。当社はかつて製造商品の一部としてピストンシリンダーを製造していた経過がございます。当時の技術を応用してアンドロイドの腰使いに、現物の男性では不可能なスピード、角度を実現しております」
「おお!たしかになんか凄く気持ちいかった気がする!フン!」
「ここにですね、お客様用の手動スイッチがございます」
「フン!フン!どれどれ!これかー。こいつがスイッチだったかー」
「はい、まず一番上が【ピストン(浅)】です」
「ピストンあさ?朝用のピストン運動?」
「いいえ、浅です。具体的に申しますと女性気の入り口で出したり入れたり」
「ひひー!!気持ちえさそー!」
「次いで二番目が【ピストン(長)】」
「超?」
「いえ、長。ロングストロークで出し入れ」
「おおお、ロングストローク、なんて魅惑的な響きなののの」
「三番目は【ピストン(深・捏)】」
「あのー、字が読めないんですけど」
「捏ねるはこねる、って読むんですよ」
「捏ね捏ね、なんて高貴な字なの。なんか皇室みたいな字」
「あんまり似てませんけどね。つまり奥で捏ね回すということです」
「ああん。もう駄目~ん」
「最後は」
「お願い、ぱんぱんやって下さい」
「はい四番目は【ピストン(深・突)】です」
「はふー!」
鼻息を荒げ、倫子はバイブえもんの膝の上に載った。パジャマからスーツに着替える途中だったので、パンティとブラジャーを着けただけの格好で、何時でも裸になれるという状況だった。
(つづく)
★「第一話 バイブえもん登場!」その4
「え?まずいですよ。会社に遅刻しますよ倫子さん」
「いや!倫子って呼んで」
「はあ。じゃ、ノーマルモードだと間違いなく遅刻するのでクイックモードでよろしいですか?」
「え?何それ?」
「モード変換できるんですよ」
「ほほう、どういうモードがあるの?」
「ここにあるんです。ほらこの首の後ろ」
「あ!なんか書いてある。あれ、ここ押すと字が変わる。どれどれノーマル、クイック、スポーティ・・・あ、これがいい、このネッチリモードっての」
「駄目ですよ、遅刻しますよ」
「いいの体調悪いって電話しとくから。だって本当だもの。もう一年もセックスしてないんだから体調おかしくなって当然よ。ね、早く、お願いちまちゅー」
「いいや、駄目です」
「なんで?あなたバイブでしょ?ご主人の言うこと聞きなさい」
「残念でした。私を注文したのあなたのご子孫様です。その方からもう一つご注文を受けておりまして、あなたが節度ある生活を送るよう監視しなさいと」
「何ですって!?余計なお世話よ!ぷんぷん!もういいわ、会社へ行きます」
「まあクイックモードならギリギリ遅刻しないかもしれません」
「え!?本当?じゃあお願いちまちゅ」
「はい、それではクイックモードっと」
くちゅっプヌプヌプヌ
あふっあはん、もっちょ
ういんういんういん
あああんんん
しーん
うん?
びびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびびび
あばばばばばばばばばばばばばばばばば
だでぃごべええええええ
あびばばばば
ひーひーひー
「ちょっと!なによこれ?」
「クイックモードでございます」
「なんか痺(しび)れちゃったじゃない!道路工事やってんじゃないのよビビビバババって!」
「はあ、でも短時間でいって頂くにはこれが」
「まあ、いっちゃたことはいっちゃったけど何か嫌な感じ!屈辱だわ、こんな馬鹿な生き方させられちゃって。ちょっと帰ってきたらねっちりモードだかんね!分かってるでしょうね。もう好きなように楽しんでやるわ。覚悟しときなさい!プンプン!」
倫子はそそくさとスーツを着込むとアパートを出た。
(つづく)
★「第一話 バイブえもん登場!」その5
「倫子さん、ちょっと」
細野課長の声がした。悪い奴では無いが、オカマ言葉が気になる。多分、自分だけでなくみんなそう思ってるに違いないよ、と倫子は考えていた。しかし、オカマ言葉は当社が女性の多い職場だから仕方なのかもしれない。問題はプラス簾(すだれ)頭ということだ。オカマ言葉+簾頭=どう見ても仕事が出来るように見えない。実際、非常に頼りない。会議では流されるまま自分の意見ゼロ。営業先でもまともな説明は出来ず。
しかしその彼が何故に営業課長か?その理由は、彼がどんなに阿呆でも何故か営業成績だけはいいということだ。倫子はその秘密が彼のオカマ言葉+簾頭にあると見ていた。簾頭という視覚効果とオカマ言葉でグズグズ言われたら営業先の担当者も困る。尚且つ彼は馬鹿!といわれようがクズ!と言われようが帰らない。目に涙を浮かべながら、客の会社に居座るのだ。客が困り果てて
「そろそろお帰り下さい」
と言うと
「じゃあ契約してちょうだい!」
と泣きながら言う。
簾頭×オカマ言葉×泣き脅し=契約成立。
しかし、一番迷惑なのは同行させられた課員。ずーーーーっと、彼の隣で一部始終を見守っていなければならない。相手先の社員達の冷たい視線と嘲笑に耐えながら。私はこの人とは違うんです、関係ないんです、と叫びたくなるのを我慢して、ただ肩を並べて座っているのだ。
その課長が自分に声を掛けてきた、ということは、もしや?一緒に営業に行けという事か?
『いやー!!具合悪くなろ。早退、早退。そう!今日はひどい生理で、生理休暇いただかないと』
倫子はわずかに身体を捩じらせながら課長席に向かった。いつでも「具合悪くって」と言い訳できるように。
「倫子さん、あのですね」
「ひ!あの課長、私朝からちょっと体調の方が」
「は?」
「体調悪くて」
「え?いつもよりツヤツヤしてるから体調いいのかと思いましたよ」
「あ、ツヤツヤはその、朝から一本抜いて」
「朝から一本?」
「あああ、朝からホモビタンCを一本」
「なるほど」
「それなら元気でしょ。実はお願いがあるのですが」
「ははは、はいー?」
「ダイバーリーゼント社に一緒に行って頂きたいんです。401Kを導入されたいそうで、そのご相談に」
「ひ!ダイバーリーゼントってあの六本木ピラーズの、あの変な人たちばっかの会社」
「失礼な!お客様ですよ!口を慎んで」
「は、済みません」
最悪だ。最悪。ダイバーリーゼントとは、ダイビング好きのエリート男が設立したITベンチャー。設立後まだ3年というのに日の出の勢い、と言おうか生き馬の目を抜く快進撃で、天文学的売上を記録している会社だ。しかし、問題はいろいろある。男性社員が全員リーゼント。パソコンおたく集団のくせしてである。社長がダイビングも好きだが髪型はリーゼントが好きだからだ。つまり簡単に言うと変な連中の集まりである。
前に行った時もレースクイーン並にスタイルのいい倫子は、おたくandリーゼント軍団から全身を舐め回すように見られた。「君、どこのエイギョー?」とか声を掛けるでもなく、パソコンの手を止め黙ったまま、ひひひ、という顔つきで。
「ああ勘弁して下さい。気持ち悪い。ぶるぶるぶるぶる」
「駄目です。あちらさんは倫子さんのとこ気に入ってるみたいよ」
「え!?誰が?」
「誰が、っていうか皆さん。倫子さんが来るといい匂いがするんだって」
「に・ほ・ひ・嗅いでたの?気持ち悪ー!!」
「仕事なのよ。観念なさい」
「はひ。ぐっすん」
(つづく)