北極30えもん7 | biko先生のマネー奮闘記

北極30えもん7

「第一話 バイブえもん登場!」その7
「どういうことと言われましても大したことではございませんよ。未来から見ておるんであります」
「どうやって?」
「パソコンで」
「パソコン?」
「そういうソフトが売ってるんですよ」
「何それ?随分簡単に言うけどプライバシーの侵害じゃない」
「まあ、そう言えない事もありませんけど、一応、自分のご先祖様しか見てはいけないことになっています」
「えー!?じゃあ、私がオナニーしてるとこもいつも見てたってこと?」
「はい」
「はい、じゃないわよ。勘弁してよ。じゃ、今も見てるの?」
「そうですね」
と言うと北極30えもんは時計をちらりと見て
「見てませんね」
「え?何で?」
「もう、お休みになられています」
「お休み?」
「つまり寝ておられます」
「寝てる?まだ9時よ」
「未来人は早寝早起きなんです」
「へえ、じゃ起きてる時だけ見てる訳?」
「まあ、暇な時ですね」
「もう、いいや。やい子孫!ご先祖の痴態見てオナニーでもして寝てろ!」
まったくくだらない会話をしてしまった、と倫子は思った。くだらないと言えば昼間のダイバーリーゼント社でのくだらなさといったら。倫子は思わず目を瞑(つむ)って頭を横に振った。

「それでは昆布巻CFO様、そういう段取りでよろしくお願いします」
細野課長がそう話を締めた。倫子はこの馬鹿な空間からようやく帰れる、と胸を撫で下ろした。このオープンスペースにある応接にさっきから意味も無くダイバー社の社員が入れ替わり立ち代り行き来するのだ。みんなおかしな薄ら笑いを浮かべては通り過ぎていく。それも最初一人二人だったが、今は列を作って順番待ちの状態だ。
『何なの!?この人たち!』
今日のスーツはスカートの丈が短過ぎたか?
『変態どもめ!口説くことも出来ないくせに、人の脚見るな!!』
女は、上手に口説かれれば脚だろうが胸だろうが率先して見せたくなるが、覗かれるってのは不愉快なものだ。倫子が不快そうな顔をしてもお構いなし。倫子の前で、まるでコンビニで立ち読みする学生のように座り込む者まで出てきた。
そんなこんだでうんざりしているうち、契約話は順調に進んだのだ。さあこれで帰れる、と倫子が課長とともに立ち上がろうとすると、
「STOP!ちょっと待って。僕だけじゃ決められないんだった」
「と、申しますと?」
「CIOにも会って貰わないと。細かい説明はいいよ。挨拶だけしといて」
そう言って昆布巻はつかつか去って行った。
「CIOというのは初めてです。倫子さんあったことある?」
「いいえ」
倫子はそんなことより、このかぶりつきで自分の周りを囲む変態社員をなんとかして貰いたかった。課長は我関せずで、一向に気にしていない。さっきカモノハシのコスプレをした女が運んできた紅茶を啜(すす)って
「はあー」
とか一息付いてる。早く来ないか、倫子は一刻も早くCIOが来ないかと心待ちにした。
すると、
「Yes! Yes! Yes! Yes!」
「Oh!Baby Oh!Baby Oh!Baby Oh!Baby」
「Year! Year! Year! Year!」
「Hey you! Hey you! Hey you! Hey you! Hey you! Year!」
と訳の分からない英語の叫び声が聞こえてきた。歌なのかもしれない?さっきの昆布巻の野郎が更にハイテンションになって戻って来たか?
と思うとアフロヘアに白いラメのつなぎ、ゴーグル型のサングラスをした男が上半身を左右に揺すりながら歩いてきた。顔は顔黒だ。遠くから見るとオットセイがアフロヘアーの鬘(かつら)でも被(かぶ)って左右に頭を揺らしているように見える。そしてそのサングラスのふちにはネオンが埋め込まれ、パチンコ屋の看板のようにくるくるレンズの周りを回転していた。この糞熱いのにマフラーまでしてる。それも虹色のマフラー。
「Heーy、Hey、Hey、Heーy、Hey。Oh Fanky、Fanky、Fanky、Fanky」
腰を前後に激しく揺らしながら、握手を求めてきた。すかさず細野課長が
「お世話になります」
と卒ない握手。すると今度は倫子の方にその手を伸ばしてきた。倫子が握手しようとすると、突然大声で
「Oh!! Fack Fack Fack Fackyou I'm マンキー」
と叫びだした。どうやら興奮しているらしい。ウホッウホッと三、四回その場でジャンプした。倫子に飛び掛かってくるのか?というほどの興奮の仕方だ。突然、ジャンプが止まったかと思うと、手を握られ握手、上下にブンッブンッ握った腕を振られた。
「Yes! Nice Pussy Your Prity Pussy Cat Yes! Yes! Yes! Ho! I'm マンキー」
monkeyの発音が妙に気になった倫子だった。
男は素早く白いラメのつなぎの胸ポケットから名刺を出すと課長と倫子に渡した。そして
「thanks! you you you what your! mnnnnnn」
と言うと再び
「Yes! Yes! I No Anita!! Anita! Anita! Anita!」
とか歌いながら去って行った。名刺を見ると<CIO小林正夫>と書いてあった。
『死ぬまでやってろ!』
と倫子は心の中で叫んだ。
そうしてようやくダイバーリーゼント社から解放された。
(つづく)