北極30えもん5 | biko先生のマネー奮闘記

北極30えもん5

「第一話 バイブえもん登場!」その5
「倫子さん、ちょっと」
細野課長の声がした。悪い奴では無いが、オカマ言葉が気になる。多分、自分だけでなくみんなそう思ってるに違いないよ、と倫子は考えていた。しかし、オカマ言葉は当社が女性の多い職場だから仕方なのかもしれない。問題はプラス簾(すだれ)頭ということだ。オカマ言葉+簾頭=どう見ても仕事が出来るように見えない。実際、非常に頼りない。会議では流されるまま自分の意見ゼロ。営業先でもまともな説明は出来ず。
しかしその彼が何故に営業課長か?その理由は、彼がどんなに阿呆でも何故か営業成績だけはいいということだ。倫子はその秘密が彼のオカマ言葉+簾頭にあると見ていた。簾頭という視覚効果とオカマ言葉でグズグズ言われたら営業先の担当者も困る。尚且つ彼は馬鹿!といわれようがクズ!と言われようが帰らない。目に涙を浮かべながら、客の会社に居座るのだ。客が困り果てて
「そろそろお帰り下さい」
と言うと
「じゃあ契約してちょうだい!」
と泣きながら言う。
簾頭×オカマ言葉×泣き脅し=契約成立。
しかし、一番迷惑なのは同行させられた課員。ずーーーーっと、彼の隣で一部始終を見守っていなければならない。相手先の社員達の冷たい視線と嘲笑に耐えながら。私はこの人とは違うんです、関係ないんです、と叫びたくなるのを我慢して、ただ肩を並べて座っているのだ。
その課長が自分に声を掛けてきた、ということは、もしや?一緒に営業に行けという事か?
『いやー!!具合悪くなろ。早退、早退。そう!今日はひどい生理で、生理休暇いただかないと』
倫子はわずかに身体を捩じらせながら課長席に向かった。いつでも「具合悪くって」と言い訳できるように。
「倫子さん、あのですね」
「ひ!あの課長、私朝からちょっと体調の方が」
「は?」
「体調悪くて」
「え?いつもよりツヤツヤしてるから体調いいのかと思いましたよ」
「あ、ツヤツヤはその、朝から一本抜いて」
「朝から一本?」
「あああ、朝からホモビタンCを一本」
「なるほど」
「それなら元気でしょ。実はお願いがあるのですが」
「ははは、はいー?」
「ダイバーリーゼント社に一緒に行って頂きたいんです。401Kを導入されたいそうで、そのご相談に」
「ひ!ダイバーリーゼントってあの六本木ピラーズの、あの変な人たちばっかの会社」
「失礼な!お客様ですよ!口を慎んで」
「は、済みません」
最悪だ。最悪。ダイバーリーゼントとは、ダイビング好きのエリート男が設立したITベンチャー。設立後まだ3年というのに日の出の勢い、と言おうか生き馬の目を抜く快進撃で、天文学的売上を記録している会社だ。しかし、問題はいろいろある。男性社員が全員リーゼント。パソコンおたく集団のくせしてである。社長がダイビングも好きだが髪型はリーゼントが好きだからだ。つまり簡単に言うと変な連中の集まりである。
前に行った時もレースクイーン並にスタイルのいい倫子は、おたくandリーゼント軍団から全身を舐め回すように見られた。「君、どこのエイギョー?」とか声を掛けるでもなく、パソコンの手を止め黙ったまま、ひひひ、という顔つきで。
「ああ勘弁して下さい。気持ち悪い。ぶるぶるぶるぶる」
「駄目です。あちらさんは倫子さんのとこ気に入ってるみたいよ」
「え!?誰が?」
「誰が、っていうか皆さん。倫子さんが来るといい匂いがするんだって」
「に・ほ・ひ・嗅いでたの?気持ち悪ー!!」
「仕事なのよ。観念なさい」
「はひ。ぐっすん」
(つづく)